山本英臣

ヴァンフォーレ甲府の魂

山本英臣は、1980年 6月26日に千葉県市川市で生まれたプロサッカー選手です。主にディフェンダーやミッドフィルダーとしてプレーし、長年にわたりヴァンフォーレ甲府の中心選手としてチームを支え続けています。そのキャリアは、クラブの歴史と深く結びついており、多くのファンから「ミスターヴァンフォーレ」として親しまれています。

プロキャリアのスタートは、ジェフユナイテッド市原（現在のジェフユナイテッド市原・千葉）でした。ジュニアユース、ユースと育成組織を経て、1999年にトップチームへ昇格を果たします。しかし、当時の市原ではレギュラー獲得には至らず、主にカップ戦での出場機会に限られました。4年間でリーグ戦出場はわずか4試合、その他カップ戦を含めても合計11試合の出場にとどまりました。2002シーズン終了後、契約満了に伴いチームを離れることになります。

新たなキャリアの舞台として山本が選んだのは、2003年に加入したヴァンフォーレ甲府でした。当時の甲府は、前年に辛うじて最下位を脱出したばかりで、Jリーグにおいてはまだ弱小クラブというイメージが根強いチームでした。このような状況下で甲府の一員となった山本は、加入初年度にプロ入り後初めてのゴールを記録します。さらに、その後の試合でも連続して得点を挙げ、攻撃面での貢献も見せました。しかし、シーズン全体では34試合に出場したものの、先発出場は6試合にとどまり、チームの主力として定位置を確保するには至りませんでした。

2004年も開幕当初は途中出場が多かったものの、シーズンが進むにつれて先発での出場機会が増加します。ところが、8月1日の試合中に骨折という不運に見舞われ、戦線から離脱。そのままシーズンを終えることとなり、出場は18試合にとどまりました。翌2005年も前年の怪我の影響でシーズンの出だしは遅れ、初出場は6月までずれ込みます。この年も途中出場が中心でしたが、シーズン終盤に転機が訪れます。第38節から最終節にかけて7試合連続で先発出場を果たし、さらにJ1・J2入れ替え戦の2試合にもフル出場。チームがクラブ史上初のJ1昇格を成し遂げる立役者の一人となりました。

J1昇格を果たした2006年は、山本にとって飛躍の年となります。前年終盤の活躍への信頼に加え、守備陣の主力選手の移籍や怪我といったチーム事情もあり、山本は左サイドバックのレギュラーポジションを掴みました。出場停止の2試合を除くすべてのリーグ戦（32試合）に先発フル出場を果たし、献身的な守備でチームのJ1残留に大きく貢献します。この頃から、独特な無回転のフリーキックを習得し、セットプレーの重要なキッカーとしてもチームを支えるようになりました。

2006年以降、山本はヴァンフォーレ甲府にとって不可欠な存在となっていきます。J1での2年目となった2007年は、チームは残念ながらJ2降格となりましたが、山本自身は左右のサイドバックとして26試合に先発出場し、その存在感を示しました。J2降格後もチームに残り、2008年以降は出場停止や怪我による離脱を除けば、ほぼ全ての試合に出場し続けることになります。

2009年には、長年チームを牽引してきた選手に代わり、クラブキャプテンに就任。チームリーダーとしての重責を担います。2010年シーズンは、センターバックとして強固な守備陣を形成し、チームを4年ぶりのJ1昇格に導く原動力となりました。

2012年に城福浩監督が就任すると、山本のプレーはさらに多様化します。チームの戦術に応じてセンターバックやボランチといった異なるポジションを高いレベルでこなすようになり、その柔軟性と安定感でチームを牽引。この年のJ2優勝の立役者として、再びJ1昇格に貢献しました。2013年も開幕直後の怪我がありましたが、復帰後はボランチや3バックの中央でプレーし、チームをJ1残留に導きます。特にシーズン終盤のシステム変更後、3バックの中央で守備を統率する役割は、彼の戦術理解度とリーダーシップを示すものでした。2014年も、前年に引き続き3バックの中心としてチームの守備を支え、出場停止の1試合を除く全ての試合に出場。リーグ戦で自身キャリアハイとなる3得点を挙げるなど、攻守にわたる活躍で2年連続のJ1残留に貢献しました。

2019年には、10年間にわたって務めたキャプテンの座を若手選手に譲りますが、チームにおけるその存在感は揺るぎないものでした。ベテランとしてチームを支え続け、2020年9月にはJリーグ通算500試合出場という偉大な記録を達成しました。

そして、彼のキャリアにおいて最も記憶に残る瞬間の一つが訪れます。2022年の天皇杯決勝です。延長後半に途中出場した直後、ペナルティエリア内でハンドを犯してしまい、相手にPKを与えてしまいます。「もうサッカーを辞めよう」とまで思い詰めるほどの絶望感を味わいますが、味方GK河田晃兵がこのPKをストップ。九死に一生を得たチームはPK戦に突入します。PK戦で、5人目のキッカーとして登場した山本は、プレッシャーのかかる場面で冷静にシュートを決め、チームを天皇杯初優勝へと導きました。これは、彼が甲府に加入して20年目で掴んだ、クラブとしても自身にとっても初の主要タイトルでした。

さらに、天皇杯優勝によって出場権を得たAFCチャンピオンズリーグでは、2023年10月25日に行われた試合で途中出場。43歳と4ヶ月という年齢で、自身にとって初の国際大会出場を果たし、キャリアに新たな1ページを加えました。

ヴァンフォーレ甲府一筋に近いプロ生活を送り、J2優勝、J1昇格、J1残留、そして天皇杯優勝と、クラブの歴史における重要な局面の全てに関わってきた山本英臣は、まさにクラブの「レジェンド」と呼ぶにふさわしい選手です。ピッチ上での献身的なプレーに加え、長年キャプテンを務めるなどリーダーシップも発揮し、多くのファンから愛されています。私生活では3児の父でもあり、家族の支えも力に変えています。そのキャリアは、苦難を乗り越え、チームと共に成長し続けた不屈の軌跡と言えるでしょう。

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