岡堂哲雄

生涯と経歴

岡堂哲雄（おかどうてつお、1932年 - 2018年 6月23日）は、北海道弟子屈町の出身で、日本の臨床心理学界において特に家族心理学および家族療法の分野で顕著な功績を残した人物です。東北大学で心理学を修め、1954年に同学文学部哲学科心理学専攻を卒業後、大学院に進みますが、1955年に中退しました。

その後、臨床の実践家としてのキャリアをスタートさせ、釧路、札幌、東京の家庭裁判所で調査官として勤務しました。この経験が、後の家族に関する研究や臨床活動の基盤となったと考えられます。

教育者としては、1966年から聖路加看護大学で教鞭を執り始め、衛生看護学部で講師、助教授を経て、1972年には教授に昇進しました。1979年には文教大学人間科学部へ移り教授を務め、1993年からは同大学大学院人間科学研究科臨床心理学専攻の教授として、後進の育成に力を注ぎました。長年の貢献が認められ、文教大学名誉教授の称号を得ています。晩年は聖徳大学人文学部臨床心理学科教授としても活動しました。

専門分野と貢献

岡堂氏の専門は臨床心理学、中でも家族心理学と家族療法に深く根差していました。日本の心理学界において、家族をシステムとして捉え、その関係性を臨床的に探求するアプローチを確立する上で中心的な役割を果たしました。単に個人の心の問題としてではなく、家族全体の相互作用の中で問題が生じ、解決されるという視点は、多くの臨床家や研究者に影響を与えました。

彼は「家族心理士」という資格も有しており、家族という単位への深い洞察と専門的な介入スキルを持っていました。その研究成果や臨床知見は、精神医療、教育、福祉など多岐にわたる分野に応用されています。

学会活動と社会貢献

岡堂哲雄氏は、日本の心理学、特に家族心理学分野の発展にリーダーシップを発揮しました。1982年から1999年にかけては、日本家族心理学会の会長を長期間務め、同学会の基盤強化と学術活動の推進に尽力しました。また、国際的な舞台でも活躍し、1990年から1994年にはInternational Academy of Family Psychologyの会長を務めるなど、日本の家族心理学を世界に紹介する役割も担いました。

その他にも、日本ヒューマン・ケア心理学会の会長（1999年-2008年）を務めたほか、文部省学術審議会専門委員、日本学術会議心理学研究連絡委員会委員、日本心理学会第3部門代議員、日本保健医療行動科学会理事、日本ストレス学会評議員、日本精神衛生学会顧問、国際家族療法学会理事など、数多くの公的および学術的な役職を歴任しました。これらの活動を通じて、心理学の社会における認知度向上や専門性の確立に貢献しました。

著述活動

岡堂氏は非常に多作な著者でもあり、専門分野に関する膨大な量の書籍、共編著、翻訳を世に送り出しました。その著作は、家族関係、集団力学、愛着、心理テスト、カウンセリング技法など、臨床心理学の幅広い領域を網羅しています。

代表的な単著には、『家族関係の臨床心理』（1967年）、『心理学的家族関係学』（1976年）、『ファミリー・カウンセリング』（1987年）、『家族心理学講義』（1991年）、『家族カウンセリング』（2000年）、『家族というストレス』（2006年）などがあり、これらは日本の家族心理学における古典として読み継がれています。

また、多くの研究者や臨床家との共編著や、海外の重要な心理学関連書籍の翻訳も多数手掛けており、日本の心理学界に最新の知識や技法を紹介する役割も果たしました。これらの著述活動を通じて、専門家だけでなく一般の人々に対しても、家族や人間関係の心理学に関する理解を深める機会を提供しました。

まとめ

岡堂哲雄氏は、家庭裁判所調査官としての実務経験を基盤に、大学教授として教育・研究に携わり、日本の臨床心理学、特に家族心理学および家族療法分野のパイオニアとしてその発展を牽引しました。国内外の学会で重要なポストを歴任し、多数の著作を通じて自身の研究成果や知見を広く共有しました。彼の業績は、日本の心理臨床の実践と理論の両面に多大な影響を与え、今なお多くの人々に参照されています。

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