岩崎一彰

岩崎一彰：宇宙を描き、生活を彩った芸術家

岩崎一彰（本名：岩崎敏二）は、日本の宇宙美術というジャンルにおいて草分け的存在として知られる天体精密画家であり、同時に優れた手腕を持つ産業デザイナーでもありました。その生涯を通じて、広大な宇宙の光景を緻密に描き出す一方、身近な生活に溶け込む製品のデザインを手がけるという、一見対照的な二つの分野で顕著な業績を残しました。

幼少期から美術への強い関心を持ち、やがて宇宙という無限の世界に魅せられます。京都大学の宇宙物理学者である宮本正太郎をはじめとする専門家たちの勧めを受け、岩崎氏は天体精密画家としての道を本格的に歩み始めます。彼の作品は、実際に天体望遠鏡で観測したり撮影された画像に基づいており、極めて科学的かつ写実的な描写が特徴です。その画風は、米国の著名な宇宙画家であるC.ボンステルの影響を受けたものであると自身で語っています。

絵画制作の一方で、岩崎氏は産業デザイナーとしても確固たる地位を築きました。数多くの工業製品のデザインを手がけ、工業技術院長賞など栄誉ある賞を受賞しています。彼のデザインワークの中でも特に広く知られているのが、ハウス食品のロングセラー商品「ハウスバーモンドカレー」のパッケージデザインです。このデザインは数十年にわたり使用され続け、多くの人々の記憶に残っています。また、プロ・アマチュア問わず多くの天文ファンに支持されたミカゲ光器の大型天体望遠鏡のデザインも担当するなど、自身の専門分野とも関連するデザインも手がけています。ミカゲ光器は残念ながら閉業していますが、岩崎氏が設立した美術館で使用されていた同社製の大型望遠鏡は、今なお元社員の方々の協力によりメンテナンスが続けられています。

岩崎氏の宇宙への情熱は、絵画やデザインにとどまりませんでした。彼は反射望遠鏡の光学系に関する独自の工夫について特許を出願（公開特許広報 昭56-8109）しており、単なる芸術家やデザイナーではなく、技術的な側面も持ち合わせていたことが分かります。この特許に基づく望遠鏡は実際に製作され、当時の自宅屋上に設置されていました。その様子は、1980年に出版された画集「ザ宇宙」に写真と共に紹介されています。この画集は、巻頭に宮本正太郎、村山定男、佐伯恒夫、手塚治虫、竹宮恵子といった各界の著名人が推薦文を寄せ、さらに本文には宮本正太郎氏による英文翻訳が付されるなど、非常に豪華な作りとなっています。

後年には、長年の夢であった自身の作品を展示する私設美術館の設立を実現させます。1998年7月、静岡県伊東市の伊豆高原に「宇宙美術館」を自費で建設し、開館しました。ここでは、彼の描いた天体画の展示に加え、天文台やプラネタリウムも運営し、一般の人々が宇宙に親しみ、天文学への理解を深めるための普及・広報活動にも尽力しました。残念ながら、来場者数の減少などを理由に宇宙美術館は2016年9月に閉館しましたが、その功績は多くの人々の記憶に残っています。

岩崎氏は、本名を岩崎敏二とし、画家・デザイナーとしての活動名として岩崎賀都彰、晩年には岩崎一彰と改名しています。彼の作品は、画集として多数出版されたほか、1980年代には原画をもとにしたビデオ作品も制作されました。2007年には、日本天文学会創立100周年を記念する切手の原画を手がけるなど、その活躍は多岐にわたりました。また、1985年にはテレビCM（ロート製薬 新V・ロート）にも出演しています。

2019年に亡くなるまで、岩崎一彰氏は独自の視点と技術をもって宇宙の美しさを追求し、産業デザイナーとして人々の生活に彩りを与え続けました。彼の残した精密な天体画の数々や、身の回りにある製品デザインは、今なお多くの人々に影響を与えています。

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