岩村敬

岩村 敬（いわむら さとし）氏は、1944年7月12日に兵庫県で生を受け、日本の運輸行政を長く支えた官僚です。東京大学法学部で研鑽を積んだ後、1969年7月に当時の運輸省に入省し、そのキャリアをスタートさせました。

省内では、多岐にわたる部署で重要な役職を歴任しました。初期には、大臣官房政策課でエネルギー対策室長として、代替燃料の一つであるメタノールを用いた自動車の普及を目指す企業設立に関与するなど、先進的な取り組みに携わりました。また、国際運輸・観光局の外航課長として、物流の根幹に関わる貨物運送業を取り扱う法規の整備に深く関与するなど、その手腕を発揮しました。

さらに、航空行政の中枢である航空局監理部総務課長や飛行場部長を務め、日本の空の玄関である空港の整備や運営に関わる業務を統括しました。大臣官房文書課長としては、省内の公式文書の管理という要職を担い、行政運営の基盤を支えました。

局長級ポストでは、1997年6月に海上交通局長に就任し、海運行政の指揮を執りました。翌1998年7月には航空局長へと移り、日本の航空政策全般に責任を負う立場となりました。2000年6月には運輸政策局長に就任し、運輸行政の企画・立案において中心的な役割を果たしました。

2001年1月には、省庁再編に伴い発足した国土交通省で大臣官房長に就任。省内行政の要として組織運営を担い、同年7月には総合政策局長として、国土交通行政全体の基本政策策定を推進しました。

その後、2002年7月には国土交通審議官に昇進。これは事務次官に次ぐ要職であり、省の重要施策や対外的な調整において重責を担いました。

そして、2004年7月、日本の国土交通行政の最高位である国土交通事務次官に就任。約1年間の任期を務め、2005年8月に辞職しました。

官界を退いた後も、岩村氏はその豊富な経験と知見を活かし、様々な分野で活動を展開しました。財団法人港湾近代化促進協議会会長として港湾分野の振興に貢献したほか、学術分野では慶應義塾大学環境情報学部や東京大学公共政策大学院で教授・特任教授として教壇に立ち、後進の育成にあたりました。

また、民間企業においても、株式会社損害保険ジャパンや関西電力株式会社の顧問を務めるなど、経営への助言を行いました。特に、2009年6月から2012年6月にかけては、関西国際空港株式会社の取締役会長として、空港運営という重要な公共インフラの経営に深く関与しました。

関西国際空港会長退任後も、Peach Aviation株式会社の取締役、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団会長、一般財団法人環境優良車普及機構会長、空港施設株式会社監査役など、交通や環境、空港関連分野の要職を歴任し、社会貢献を続けました。

これらの長年にわたる功績に対し、2016年には瑞宝重光章が授与されています。岩村氏のキャリアは、日本の運輸・国土交通行政の変遷期における重要なポストを網羅しており、政策の企画・実行から、公共インフラの運営、そして退官後の社会貢献活動に至るまで、その活動は多岐にわたります。特に、官民双方の視点から日本の交通・環境分野の発展に寄与した人物として、その功績は特筆されます。

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