岸本弘

岸本 弘（きしもと ひろむ）は、1925年4月18日に広島県豊田郡木江町で生まれた日本の教育学者です。長年にわたり明治大学の教壇に立ち、同大学名誉教授の称号を得ました。

経歴

岸本氏は、広島高等学校在学中の1945年8月6日、校庭で広島への原子爆弾投下により被爆するという経験をしています。この出来事は、その後の氏の人生や研究に大きな影響を与えたと考えられます（1975年9月には被爆者健康手帳の交付を受けています）。

高校卒業後、学問の道を志し、1951年に早稲田大学商学部を卒業。さらに教育学を深く学ぶため、1954年には東京大学教育学部を卒業しました。

大学卒業後、明治大学文学部において教職課程を担当する助教授に就任。その後、教授へと昇進し、長きにわたり教育学、特に教育心理学や青年心理学の分野で教育・研究活動を行いました。1996年に明治大学を定年退職し、名誉教授の称号を授与されました。その後も教育活動を続け、東京経営短期大学の教授としても教鞭をとりました。

研究と業績

岸本氏の研究の中心は、青年期や青少年期の心理と教育にありました。特に、戦後の日本社会における青少年の特質や課題、心の発達といったテーマに深く切り込みました。また、人間の心と思考のメカニズムにも関心を持ち、その発達や病理についても考察しています。被爆体験が氏の研究姿勢や人間の内面への関心に影響を与えている可能性が示唆されます。

その研究成果は多くの著作として結実しています。

『青年期の思考と行動』（国土社、1980年）
『青少年期の特質と教育』（明治図書出版、1984年）
『青年心理学』（新版、くろしお出版、1985年）
『思いやりの動機と達成動機 やる気と思いやりの心理は両立するか』（学文社、1987年）
『現代青少年の特質と課題 国際的比較に立つ子育て論』（明治図書出版、1993年）
『心と発達 ヒトと機械と動物のシミュレーション的考察』（学文社、1993年）
『心の発達と心の病 発達と障害と再生』（学文社、1996年）

これらの単著に加え、多くの共編著も手掛けています。「シリーズ・現代家庭教育新書」の中で『よい友達のつくり方』や『おとなになりたくない子』といったテーマで家庭教育に関する編著を発表したほか、『教育心理学用語辞典』や『教育心理学』、『発達と学習』、『学校カウンセリングと人間形成』など、教育心理学や発達心理学に関する専門書や事典の編纂にも携わりました。

また、海外の教育学や心理学における重要な研究成果を日本に紹介する翻訳活動も積極的に行いました。妻であり翻訳家である岸本紀子氏との共訳が多く見られます。

ホール『子どもの心理と教育』
ブルーナー『思考の研究』
フラベル『ピアジェ心理学入門』
ファース『教師のためのピアジェ入門』
ピーター・ローランズ『閉ざされた心 自閉症の幼児を持つ親の記録』
* ペドレー『コンプレヘンシヴ・スクール』、『大学をすべての国民のものに イギリスのコンプレヘンシヴ大学運動』

といった主要な著作の翻訳を手掛け、日本の教育学・心理学研究の発展に貢献しました。

論文発表も多岐にわたり、幼稚園教育から私立大学の経営問題、日本の青年期の国際比較、教育におけるしつけのあり方、教師と生徒の関係性、被爆国としての視点、乳幼児から青年期に至る心の発達、人間理解の方法論、言語習得など、幅広いテーマで研究成果を発表しています。これらの論文は、『明治大学人文科学研究所紀要』や教育専門誌などに掲載されました。

まとめ

岸本弘氏は、被爆という特別な経験を背景に持ちながら、教育学者として特に青年期心理や人間の心の発達に関する研究を深めました。明治大学での長年の教育・研究活動、多数の著書、共編著、そして海外の重要な文献の翻訳を通して、日本の教育学・心理学分野の発展に多大な貢献をしました。妻である翻訳家の岸本紀子氏との協働も、その業績の一端を担っています。

もう一度検索