岸田久吉

岸田久吉：多岐にわたる分野で貢献した動物学者

岸田久吉（1888年8月25日 - 1968年10月4日）は、日本の動物学者として、哺乳類から節足動物に至るまで、非常に広範な分野で研究活動を展開しました。晩年に至るまでその探求心は衰えることなく、数多くの業績を残しました。

幅広い研究分野と哺乳類研究

岸田の研究対象は多岐にわたりましたが、特に哺乳類に関する研究は重要な位置を占めています。「樺太の哺乳動物相」や「千島群島の哺乳動物相」といった論文を発表し、哺乳類学者としての名声を確立しました。エゾオオカミ、キタキツネ、エゾナキウサギ、ホンシュウジカなど、数多くの哺乳類の命名にも携わっています。また、日本人として初めて哺乳類の図説である『哺乳動物図解』を刊行し、日本の哺乳類研究の発展に大きく貢献しました。

節足動物研究の先駆者として

農林技官として農業害虫の駆除にも貢献しましたが、岸田の関心はそれにとどまらず、陸上節足動物、特にクモ目、ダニ目、ザトウムシといった、一般にはあまり注目されない分野に集中しました。これらの分野において、彼は日本における先駆者的な存在であり、多大な貢献をしました。特にクモに関しては、キムラグモの正式な記載を行い、発見者である木村有香に献名したことは特筆に値します。

学会活動と雑誌「Lansania」

岸田は、日本動物学会、日本生物地理学会、日本哺乳動物学会、日本昆虫学会、応用動物学会、日本応用昆虫学会など、数多くの学会の創立発起人や評議員を歴任し、日本の動物学研究の発展に大きく貢献しました。また、「Lansania: Journal of Arachnology and Zoology」という雑誌をほぼ一人で刊行しました。しかし、「Lansania」は未発行の巻号や論文が多く、発行年月日も不正確であったため、分類学や文献学上の混乱を招いた側面もありました。

多彩な著書と論文

岸田久吉は、研究活動の傍ら、数多くの著書や論文を発表しました。これらの著作は、彼の研究成果を広く社会に伝えるとともに、後進の研究者たちに大きな影響を与えました。

研究における課題と人物評

岸田の業績には、正式な記載を怠ったり、記載がいい加減であるといった問題点も指摘されています。しかし、多くの研究者たちは、岸田を「常に先輩としてきわめて親切で、後進の指導に熱心で心配りの行き届いた人」と評しており、その人柄は高く評価されていました。

岸田久吉が記載した主な生物

哺乳類: エゾオオカミ、キタキツネ、エゾナキウサギ、ホンシュウジカ（亜種）
クモ目: キムラグモ属、キムラグモ、メガネヤチグモ属、ドウシグモ属、エダイボグモ属、キシノウエトタテグモ、コマツエンマグモ、トウキョウウズグモ、ホウシグモ、コケオニグモ、イシサワオニグモ、ヒトエグモ、ヒゲナガハシリグモ、ウラシマグモ、イヨグモ
ダニ目: カンザワハダニ、ウチダマミズダニ
昆虫: キナコアブラムシ
その他: ニワヤスデモドキ、ヨロイウミグモ、カエルシタムシ

献名された属と種

クモ類: ブチワシグモ属（Kishidaia Yaginuma, 1960）、ユアギグモ（Patu kishidai Shinkai, 2009）
* 和名: キシダグモ科、キシダグモ属

岸田久吉は、日本の動物学、特にクモ学の発展に大きく貢献した偉大なパイオニアであり、その功績は後世に語り継がれるでしょう。

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