島岡達三

島岡達三：益子焼を世界に羽ばたかせた陶芸家

島岡達三（1919-2007）は、栃木県益子町で活躍した、世界的に知られる陶芸家です。益子焼の中興の祖と称される濱田庄司に師事し、独自の技法「縄文象嵌」を確立。「民芸陶器（縄文象嵌）」の重要無形文化財保持者（人間国宝）に認定され、日本の伝統工芸に大きく貢献しました。

生い立ちと濱田庄司との出会い

東京で組紐師の家に生まれた島岡は、当初文系を志望していましたが、父の勧めにより東京府立高等学校高等科理科、その後東京工業大学窯業学科に進学します。しかし、科学的な知識を活かしつつ、自身の美的センスを追求したいという思いから、大学在学中に日本民藝館を訪れ、濱田庄司や河井寛次郎の作品に感銘を受けます。柳宗悦の民芸論にも影響を受け、「民芸陶工」の道へと進むことを決意しました。

東京高等工業学校の先輩でもあった濱田庄司に弟子入りを志願し、認められます。大学在学中から益子に通い、岐阜県駄知や益子の窯元で修行。西日本各地の民窯も見学し、沖縄の壺屋での修行も計画しましたが、太平洋戦争の影響で断念せざるを得ませんでした。

1941年、大学を繰り上げ卒業後、兵役を経て1946年に復員。両親と共に東京から益子に移住し、本格的に濱田庄司に師事することになります。濱田の下では、土作りから窯焚きまで、ありとあらゆる作業をこなしながら、夜間は作陶に励みました。「肌で学び盗め」という濱田の教えは、伝統的な徒弟制度を踏襲したものでした。

縄文象嵌技法の確立

濱田窯での修行後、栃木県窯業指導所で粘土や釉薬の研究に従事。各地の博物館や大学を訪れ、古代土器の研究に携わる中で、「縄文」への関心が深まっていきます。1953年、独立し、自身の窯を築きます。

初期は濱田庄司の作風を踏襲していましたが、やがて濱田から「自分の作品」を作るよう促されます。1950年代後半から1960年代にかけて、李氏朝鮮時代の象嵌技法と組紐師であった父の技術を融合させ、「縄文象嵌」という独自の技法を確立しました。この技法は、縄文土器の文様をモチーフに、色鮮やかな釉薬を象嵌することで、独特の深みと美しさを表現しています。

人間国宝としての活躍

島岡は、国内外で個展や作品発表を行い、益子焼の普及にも尽力しました。多くの論文や書籍を執筆し、益子焼の現状や発展について発信し続けました。1996年、「民芸陶器（縄文象嵌）」で重要無形文化財保持者（人間国宝）に認定されます。

その後も精力的に創作活動を続け、数々の賞を受賞。NHK教育テレビ番組「趣味百科」にも講師として出演するなど、幅広い活動で陶芸界に貢献しました。2007年、急性腎不全のため逝去。享年88歳。

上皇明仁との関わり

2016年、上皇明仁による「生前退位」のビデオメッセージの背景に、島岡達三作の益子焼の大皿が飾られていたことが話題となりました。上皇は1996年に島岡の工房を訪問しており、その後、島岡から大皿が献上されたと考えられています。

弟子と後継者

島岡達三には、国内外から多くの弟子が学びました。その数は100名以上に及び、益子焼のみならず、日本の陶芸界全体に大きな影響を与えました。現在も、島岡の技術と精神を受け継いだ陶芸家たちが、益子町で活躍しています。島岡の孫である島岡桂は、島岡窯（島岡製陶所）を継承し、伝統を守りながら新たな創造に挑戦し続けています。

まとめ

島岡達三は、卓越した技術と芸術性、そして旺盛な創作意欲で、益子焼、ひいては日本の陶芸界に多大なる貢献を果たした偉大な陶芸家でした。彼の作品は、今も人々を魅了し続けており、その功績は長く語り継がれていくことでしょう。

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