崎山比早子

崎山 比早子（さきやま ひさこ）

崎山 比早子氏は、医学博士として放射線が人体に与える影響、特に低線量被曝や成長期の子どもへの影響について深く研究してきた専門家です。

彼女の経歴は、1965年に千葉大学医学部を卒業したことから始まります。さらに、1974年には同大学大学院医学研究科を修了し、医学博士の学位を取得しました。その後、米国マサチューセッツ工科大学（MIT）で研究員として、また日本国内では放射線医学総合研究所で主任研究官として長年にわたり放射線医学の研究に携わりました。これらの機関での経験は、彼女が放射線に関する深い知識と洞察を培う基盤となりました。

研究者としてのキャリアを積んだ後、1999年からは高木学校のメンバーとして活動の場を広げます。高木学校は、物理学者である高木仁三郎氏が1998年に設立した団体です。高木氏は、原子力、特にプルトニウムの危険性について生涯にわたり警鐘を鳴らし続けました。高木学校は、市民が科学的な視点を持って社会問題に取り組むための「市民科学者」を育成することを目的としており、崎山氏はここで市民の立場から原子力問題などに科学的にアプローチする活動を展開しています。

2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故においては、事故の原因究明や影響評価を行うために設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の委員として重要な役割を果たしました。この経験を通じて、原発事故がもたらす深刻な問題や放射線被曝の現実について、より深く関わることとなりました。

彼女の研究や問題意識は、数多くの著作や論文として発表されています。例えば、2003年の原子力資料情報室通信に掲載された「低線量放射線の影響は過小評価されて来たのではないか 低線量放射線でできた二重鎖DNA 切断は修復されない？」という論文では、従来の評価では見過ごされがちな低線量被曝のリスクについて疑問を投げかけ、DNA損傷の修復メカニズムに関連付けてその可能性を探っています。また、福島原発事故後の2011年7月には、岩波書店発行の月刊誌『科学』に「放射能セシウム汚染とこどもの被曝」を発表し、事故によって放出された放射性物質による子どもたちの健康への影響について専門的な見地から論じました。さらに、同年8月に出版されたエントロピー学会編の共著書『原発廃炉に向けて: 福島原発同時多発事故の原因と影響を総合的に考える』では、原発事故の複合的な原因や影響を多角的に分析し、脱原発、廃炉への道筋について提言を行っています。

崎山氏は、これらの活動を通じて、専門的な知識を市民社会と共有し、放射線や原子力に関する問題に対して、科学的根拠に基づいた市民の声を高めるための重要な役割を担っています。元研究機関の専門家でありながら、市民科学者としての活動に重きを置く彼女の姿勢は、科学と社会のより良い関わり方を模索する上で注目されています。

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