川上宗薫

川上宗薫（かわかみ そうくん）

1924年4月23日、愛媛県に生まれた小説家、川上宗薫。本名である「むねしげ」を筆名として用いた時期もありました。牧師の父のもと、幼少期を大分県や長崎県で過ごし、鎮西学院中等部に首席で入学するなど、秀才ぶりを発揮しました。しかし、第七高等学校や長崎高等商業学校の受験に失敗し、西南学院高等学部商科へ進学。その後、陸軍に入隊するも、肋膜炎を悪化させ入院生活を送る中で終戦を迎えます。

1945年8月9日、長崎で原爆に遭遇し、母と二人の妹を失うという悲劇に見舞われます。偶然、入院手続きが遅れたことで被爆を免れた川上は、この出来事をきっかけに、父が牧師を辞めるという大きな変化を経験しました。戦後、西南学院専門学校商科を卒業後、九州大学法文学部哲学科へ進み、後に英文科へ転科。大学在学中には、長崎女子商業高等学校で英語教師として教鞭をとり、生計を立てました。1949年には『西日本新聞』の懸賞論文で入選、学友会文藝部で小説を書き始め、同人誌に処女作を発表するなど、作家活動を本格化させていきました。

大学卒業後は、海星高等学校で教鞭をとるも、すぐに退職し、千葉県へ移住。北原武夫に師事し、小説家としての道を歩み始めます。同人誌への参加を経て、1955年には『文學界』と『群像』に作品を発表し、商業デビューを果たしました。その後、芥川賞候補に5度選出されるも、受賞には至りませんでした。この間、1959年には、友人の水上勉の作品を編集者に紹介しますが、後に水上との間に確執が生じ、文壇的なスキャンダルに発展。川上の作品は文芸誌から敬遠され、大衆文学の世界へと進むことになります。

1960年代後半からは官能小説の分野で独自の地位を確立し、「失神派」と呼ばれるようになりました。1969年、共通の友人である佐藤愛子の直木賞受賞を機に水上勉と和解。流行作家となってからは、私生活では、妻子と別れて複数の女性と同棲するなど、奔放な生活を送りました。晩年は、糸井重里の企画に参加するなど、旺盛な好奇心を持ち続けました。

1979年に食道潰瘍の手術を受け、1984年にはリンパ腺癌が発覚。闘病生活を送るも、1985年10月13日、61歳でその生涯を閉じました。川上の死後、自宅は色川武大が一時的に間借りしました。

川上宗薫の作品は、その過激な描写から賛否両論を呼びましたが、川端康成や筒井康隆など、多くの作家や評論家から評価されました。しかし、師である北原武夫からは、川上の作風が純文学には不向きであると評されたこともありました。原爆で家族を失った経験を持ちながらも、その悲劇を直接的に作品に描くことを避け、「ああいうことを売りものにしたくないんだ」と語っていました。その一方で、初期には、原爆を題材にした作品『残存者』も執筆しています。

川上は、官能小説を書くにあたっても、必ず「取材」を行い、女性との交渉を「仕入れ」、女性器を「構造」と呼んだといいます。その旺盛な性欲から「性豪」と呼ばれることもありましたが、実際は小柄な体格で、初めて会う女性からは「もっと大きい人かと思った」と言われることが多かったようです。また、自宅で行う「ピンポン野球」に熱中したり、山藤章二に突拍子もない電話をかけるなど、ユニークな一面も持ち合わせていました。

猛獣や闘犬を好み、闘犬に関する著書も残しています。プロレスにも関心があり、「誰が一番強いか」という話題に熱中するなど、子供のような一面もありました。

川上宗薫は、その奔放な生き方と、独特な作風で、昭和の文壇に大きな足跡を残した作家と言えるでしょう。純文学から官能小説まで、幅広いジャンルで才能を発揮し、多くの読者を魅了しました。

著書リストは、1956年から1990年まで、多岐にわたる作品が発表されており、その執筆活動の旺盛さが伺えます。

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