川並鳶

川並鳶（かわなみとび）

川並鳶とは、江戸時代から昭和時代にかけて、主に江戸・東京の木場で材木の管理や運搬に携わった職人たちのことです。木場の発展とともに独自の文化を育み、その技術は現代にも受け継がれています。

概要

川並鳶は、木場で原木の仕分けや等級の調整、検品作業を担当しました。一方、筏師は、船で運ばれてきた原木を東京湾で筏に組み、木場まで運搬する役割を担っていました。機械化が進む以前は、木材を水に浮かべて作業を行う必要があり、川並鳶は木場特有の専門技能者として重宝されました。

司馬遼太郎は、彼らを「筏士」と呼んだとされ、石井赤太郎の画集『木場角乗保存』にもその様子が描かれています。

歴史

江戸時代初期、江戸城の築城や都市開発に伴い、木材需要が急増しました。その後も、大火などの災害が頻発し、木材の需要は衰えることがありませんでした。

寛永18年（1641年）の桶町大火では、日本橋材木町にあった木場が火災を拡大させた一因とされ、これを教訓に、材木置き場は都市郊外の河口を埋め立てて整備されることになりました。こうして深川に新たな木場が作られました。明暦3年（1657年）の明暦の大火後には、復興のために大量の木材が木場に運び込まれ、木場は地方の山林地からの木材が集まる重要な拠点となりました。

延宝年間（1673年 - 1681年）には、幕府御用の材木商人が移転し、その頃に川並鳶が生まれたとされています。約400年の歴史を持つ川並鳶は、江戸・東京にしか存在しない独特の職種でした。

水難事故が多発する職業であったため、川並鳶の間では、万が一溺死した場合に身元を特定できるよう、背中に「深川彫」と呼ばれる入れ墨を入れることが好まれました。深川彫の絵柄は、水にちなんだものが多く、一般的な滑らかな曲線とは異なり、細かく波のように描かれるのが特徴です。

昭和36年頃には、川並鳶の親方は約20人、その下に各10人ほどの若い衆がおり、総勢200人ほどが木場で活躍していました。

角乗り

川並鳶の間では、角材の上に乗ってバランスを取り、技術を競う「角乗り」という遊びがありました。これは慶長年間に生まれ、仕事で身軽に動けるようにするための訓練にもなっていました。現在では、『東京木場角乗り保存会』によって伝統行事として継承されており、東京都指定無形民俗文化財および江東区登録無形民俗文化財に指定されています。毎年、東京都江東区の都立木場公園でその技が披露されています。

木場の木遣り

「木場の木遣り」とは、木を遣り渡す（運ぶ）という意味で、筏師が鳶口を使って材木を操り、陸上に引き上げる際の労働歌です。号頭（ごうがしら）の掛け声に合わせて、曳き手が即興で声を合わせ、互いの息と声を合わせながら、即興の歌詞や流行歌を歌いました。木の大きさによって仕事のテンポが異なるため、それぞれ独特の節（間）が生まれました。現在では、「木場木遣保存会」によって継承され、祭礼などの場で歌われています。こちらも東京都指定無形民俗文化財（民俗芸能）および江東区登録無形民俗文化財（民俗芸能）に指定されています。

関連項目

木材流送
木遣

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