帝国電力排形電車

帝国電力排形電車

帝国電力排形電車は、1937年に帝国電力（後の函館市交通局）が導入した事業用の路面電車、すなわち除雪車です。この車両は、明治時代から昭和初期にかけて活躍した旅客車を改造したもので、函館市電の歴史を語る上で欠かせない存在です。

概要

排形電車は、雪かき用の「ササラ電車」として、主に冬期間の除雪作業に従事しました。そのユニークな外観と、路面電車でありながら事業用という特殊な役割から、鉄道ファンのみならず多くの人々に親しまれています。

製造の背景と経緯

1937年、当時函館市内で軌道事業を運営していた帝国電力は、6両の旅客車を自社工場で改造し、排形電車を製造しました。排1号から排4号は新造車両として認可されています。

改造にあたっては、雪かき用の動力を得るために日立製作所製のモーター（HS301-B、18.7kW、600V）を、主電動機には神鋼鳥羽製のモーター（MT-60、37.3kW、600V）を搭載しました。

種車となったのは、以下の車両です。

排1号：西鉄福岡市内線の基となった事業者「九州水力電気」から購入した29号車（川崎造船所製）を改造。
排2号：成田電気軌道（旧成宗電気軌道）から購入した39号車を改造。
排3号 - 排6号：東京市電気局から購入した「ヨヘロ形」244号、245号、242号、243号を改造。

構造の特徴

車体は、種車時代の木造構造をほぼそのまま残しています。しかし、オープンデッキ式の運転台は撤去され、代わりに死重が搭載されました。車端部には、ササラ電車の象徴ともいえる除雪用のブルームが取り付けられています。側面には、大型の引き戸が設けられました。

客室として使用されていた場所は運転台に移設され、ブルームの動力となるモーターや制御用のダイレクトコントローラーが設置されました。

廃車と保存

排3号と排4号を除く車両は廃車となりましたが、排2号は改造前の30形客車として復元され、「箱館ハイカラ號」として毎年4月中旬から10月末までの期間限定で運行されています。レトロな外観が人気を集め、観光客に親しまれています。

排1号と排5号はアメリカのシーショア路面電車博物館に譲渡されましたが、現在の状態は不明です。

運用状況

排形電車は事業用車両であるため、一般の乗客は乗車できません。しかし、過去には趣味団体の写真撮影のために貸し切り運転されたこともあります。

1990年代中頃からは、除雪作業の多くが除雪トラックで行われるようになり、近年では11月中旬の試運転を除いて運転される機会が少なくなっています。しかし、湿った重い雪が大量に降った場合や、急な降雪で除雪トラックでは対応しきれない場合には、依然として出動の機会があります。その際、2両とも出動するか、1両のみが出動するかは、その時の状況によって判断されます。

2013年には、函館の路面電車100周年記念行事として、39号、530号、723号、9602号とともに、排形電車を含む全車両が1列に並んで市内を練り歩く「電車大行進」が行われました。この際には、ブルームを回転させずに運行されました。

その他

2011年、東京都交通局の設立100周年を記念して東京都江戸東京博物館で特別展が開催された際、現存する最古の都電（市電）車両として、この排形電車が一時的に搬出され展示されました。

参考文献

『函館の路面電車100年』2013年6月。北海道新聞社刊。

外部リンク

* 函館のササラ電車（函館市HPから）

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