師団司令部令

概要

師団司令部令（しだんしれいぶれい）は、昭和15年（1940年）7月13日に軍令陸第13号として公布され、同年8月1日に施行された日本陸軍の法令です。全19条からなり、昭和20年（1945年）4月1日に師管区司令部令へ改称・改定されるまで、約5年間存続しました。

この法令は、陸軍における師団長の権限範囲と、彼が率いる師団司令部の組織体制を詳細に定めたものです。明治期に制定された師団司令部条例を改定する形で制定され、その基本的な構造は前身の条例や、後の師管区司令部令とも共通していました。

特徴と目的

師団司令部令の主な目的は、あくまで平時・戦時を問わず、師団長が持つべき権限と、それを執行するための師団司令部の基本的な構成を規定することにありました。これは、作戦部隊としての師団の編制や具体的な戦闘任務を定めるものではありませんでした。師団長が担当する管轄地域である「師管」における権限行使に関する規定が多く含まれていました。

前身「条例」からの変更点

師団司令部条例から師団司令部令への改定において、最も重要な変更点の一つは、師団長の地位に関するものでした。旧条例下では、師団長は天皇に直接隷属する（直隷する）非常に高い地位を与えられていました。しかし、本令が施行されると、師団長は天皇による親補職であることには変わりありませんでしたが、直接隷属するのではなく、新設された軍司令官の指揮下（隷下）に置かれることになりました。この変更は、同日に制定・施行された軍司令部令に合わせて行われたもので、これにより師団長が多くの権限を行使する際に、必ず軍司令官への報告が義務付けられるようになりました。

制定時の適用状況

師団司令部令は太平洋戦争の渦中に制定・施行されたため、その適用には特殊な状況がありました。当時、日本陸軍の多くの師団は日本本土を離れて外征していました。そのため、国内に残って動員計画や師管の防衛を担当していた「留守師団」、すなわち留守師団長およびその司令部が、この法令の主な適用対象となりました。一方、戦時動員されて外地に展開していた多数の師団には特定の師管が割り当てられていない場合が多く、その場合は本令の条文のうち、部隊や司令部に関する規定のみが限定的に適用される状況でした。

師団長の権限と任務

本令が定める師団長の権限・任務は多岐にわたりました。これには、有事に備えた動員計画の策定、担当部隊の錬成指導、師管の防衛計画とその実施、ならびにその際の隷下外部隊への指示（区処）が含まれます。特に近衛師団長には、皇居の守護（禁闕守護）という特別な任務も課されました。また、地方長官からの緊急要請に応じた兵力使用や、防疫上の必要による部隊移動とその際の指示権も有していました。加えて、師団長は自身の部隊や師管内の陸軍部隊全般の軍紀、風紀、内務、兵器、経理、衛生、馬事など、広範な事項について監督・統監する責任を負いました。師団の状況については、毎年軍司令官へ報告することが義務付けられていました。

なお、師団長は軍司令官の隷下にありましたが、特定の分野においては、軍司令官以外のより上位の機関や責任者からの指揮監督（区処）を受けることになっていました。具体的には、軍政および人事に関する事項については陸軍大臣から、動員計画に関する事項については参謀総長から、教育に関する事項については教育総監から、それぞれ区処を受けることとされていました。

師団司令部の構成

師団司令部は、師団長を頂点とし、本令第13条で定められた複数の部から構成されていました。具体的な内部組織は以下の通りです。

- 参謀部
- 副官部
- 兵器部
- 経理部
- 軍医部
- 獣医部
- 法務部

また、昭和16年（1941年）の改正により、新たに兵務部が設置されました。このうち、参謀部と副官部を総称して「幕僚」と呼びました。

主な改正内容

師団司令部令は、その施行期間中に二度の重要な改正を受けています。

- 昭和16年（1941年）改正: 軍令陸第19号として7月28日に制定・公布され、8月1日に施行されました。主な内容は、師団司令部に兵務部を新設することと、司令部付将校に関する規定を削除することでした。
- 昭和18年（1943年）改正: 軍令陸第14号として6月26日に制定・公布され、8月1日に施行されました。これは、同日に朝鮮の師管が廃止されたことに伴うもので、朝鮮に置かれた師団の管轄地域を「軍司令官が定める地域」と変更し、さらにこれらの師団司令部には兵務部を置かないことが定められました。

終焉

昭和20年（1945年）4月1日、戦局の悪化に伴う軍事機構の再編の中で、師団司令部令は師管区司令部令へと名称を変更し、内容も改定されました。これにより、師団司令部令はその役割を終えました。

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