干草の収穫 (ブリューゲル)

ピーテル・ブリューゲルの『干草の収穫』：フランドルの夏の情景

ピーテル・ブリューゲルによる『干草の収穫』（蘭: De hooioogst、英: The Hay Harvest）は、1565年に制作された油彩画です。初期フランドル派を代表する巨匠であるブリューゲルの作品の中でも特に有名な一枚であり、季節を表した6枚からなる連作の一部を成しています。現在では、プラハ国立美術館（ロブコヴィッツ宮殿）に収蔵されています。

作品の背景と制作依頼

この連作は、アントウェルペンの裕福な金融業者にして美術収集家でもあったニコラース・ヨンゲリンクによってブリューゲルに依頼されました。ヨンゲリンクはハプスブルク家に仕え、『バベルの塔』や『ゴルゴタの丘への行進』など、ブリューゲルの16点もの作品を所有していた重要なパトロンでした。

彼はアントウェルペンの郊外に広大な別荘を構えており、そのサロンにこの季節画連作を飾っていました。当時の富裕層は週末に別荘で文化交流を楽しむことが多く、ヨンゲリンクの別荘には、フランス・フロリスによるルネサンス様式の神話画も飾られていたといいます。ヨンゲリンクとその友人たちは、フロリスの古典的な神話と、ブリューゲルの農民画を対比して議論を深めたことでしょう。

作品の内容：夏の農作業の描写

ブリューゲル研究者の森洋子氏によれば、ブリューゲルの季節画は、他のフランドルやドイツ、フランスの月歴版画とは異なり、農民を主役として描いている点が特徴です。彼は単に月ごとの農作業を写実的に描くのではなく、季節感豊かな自然の中で働く農民たちの勤勉さと喜びを表現しています。

『干草の収穫』は、初夏の明るい光の中で活気的に働く農民たちの様子を描いた明るく楽しい作品です。前景の褐色の村道、黄緑色の牧草地と丘陵、そして青色の背景という色彩構成は、ヨアヒム・パティニールなどの影響が見られますが、パティニールの作品とは異なる、農民の生き生きとした姿が印象的です。

画面には、干草を刈り、それを積んで馬車で運ぶ農民たちが描かれています。6月から7月にかけて行われる干草の収穫作業の様子が、細部まで丁寧に表現されています。前景では、母と二人の娘が干草用のレーキを持って村道を急いで歩いています。彼らとは反対方向に歩く農民たちは、頭上の籠にサクランボやイチゴなどの果物、野菜などを運んでいます。ブリューゲルの下絵では、果物や野菜の収穫は6月に描かれており、本作が6月から7月にかけての季節を表していることがわかります。

中景には農家の裏庭があり、井戸から水を汲み上げる装置や、村人たちの弓術大会の様子も描かれています。これは、『暗い日』など他の連作と同様に、労働と休息の共存を示しています。

後世への影響と季節画連作

『干草の収穫』は、後の17世紀フランドル派の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスにも大きな影響を与えたと言われています。ルーベンスは、この作品に影響を受け、『野良仕事の帰り』などの一連の風景画を描いています。

この『干草の収穫』を含む季節画連作は、現在、以下の作品が現存しています。（※内容は省略）

参考文献

（参考文献リストは省略）

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