平和の壁

平和の壁について

平和の壁（へいわのかべ、英語: peace lines）は、北アイルランドで宗教的、民族的対立を背景に建設された分離壁の総称です。主にベルファストを中心に、デリー、ポータダウン、ラーガンなどの都市で見られます。これらの壁は、カトリックのナショナリスト地区とプロテスタントのユニオニスト地区を隔てる役割を果たしています。その建設目的は、両地域間の暴力的な衝突を抑えることにありました。

壁の特徴

平和の壁の長さは場所によって異なり、数百ヤードから最長で3マイル（5 km）を超えるものまであります。主な材質は鉄やレンガであり、高さは最も高いところで25フィート（約8メートル）にも達します。また、一部の壁にはゲートが設けられており、ここには警察が常駐していることもあります。これらのゲートは日中には開放されていますが、夜間には閉じられます。

歴史背景

平和の壁の建設は1920年代にさかのぼります。当初は一時的なものとして、ベルファストのBallymacarett地区やセイラータウン地区に仮の分離壁が設置されましたが、1970年代には本格的な壁が必要とされるようになりました。特に1969年の暴動を契機に、最初の平和の壁が建設されることになります。建設当時、担当した軍の少佐は「これは一時的なもので、数ヶ月内には取り払う予定」と語っていましたが、その後の暴力の抑制に効果があると認識されたため、壁は恒久的に設置されることとなりました。

1990年代に入ると、平和の壁の数は増加し続け、2017年までに少なくとも59か所に達しました。ベルファストでは、暴力による死亡者の約67%がこれらの「境界施設」に近接した地域で起こっているという統計もあります。

現在の状況

近年では、これらの壁は観光名所としても知られるようになりました。ベルファストでは、平和の壁やその関連する歴史的な出来事、著名な壁画を巡るツアーが行われています。特に注目されるのは、フォールズ・ロードとシャンキル・ロードを隔てる壁や、ショート・ストランドとクルアン・プレースを隔てる壁などです。

2008年には、これらの壁を将来的に取り除く方法について市民が集まり、公開討論が行われました。2011年にはベルファスト市議会が壁の解体に向けた戦略を策定することを決議しましたが、多くの住民は未だ壁の存在が暴力を防ぐために必要であるとの意見を持っています。

解体への取り組み

アイルランド国際基金は、平和の壁の解体を目指す地域社会を支援するために、平和の壁基金プログラムを始動させました。2013年には、北アイルランド執行部が2023年までに平和の壁を全撤去することを約束する声明を発表しました。しかし、実際には住民の意見や治安の問題が影響し、解体が進んでいない現状があります。

2019年には平和の壁建設から50年を迎え、その経緯や未来について議論する国際会議が開催されました。これにより、平和の壁の位置づけと重要性についての理解が深まることが期待されています。

結論

平和の壁は単なる物理的な構造物にとどまらず、北アイルランドの歴史や社会の複雑さを反映した象徴的な存在です。今後の解体に向けた取り組みが、地域社会の和解を進める一歩となることを願っています。

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