平成7年台風第12号

平成7年台風第12号は、1995年（平成7年）9月に日本列島、特に東日本に大きな影響を与えた台風です。国際名は「オスカー（Oscar）」と命名されました。

この台風は、9月13日にサイパン島北方の海上で発生しました。発生後、熱帯の暖かい海域を北西に進みながら急速に勢力を増し、瞬く間に超大型の非常に強い台風へと発達しました。9月15日には最盛期を迎え、中心気圧は925ヘクトパスカル、最大風速は50メートル毎秒に達する猛烈な勢力となりました。翌16日には、風速15メートル毎秒以上の強風域が最も広がり、その直径は約2,150キロメートルに及びました。特に南側半径は1,200キロメートル、北側半径も950キロメートルという広大なもので、これは1951年に統計が開始されて以来、5番目に大きい強風域を持つ台風として記録されています。

台風第12号は非常に強い勢力を保ったまま北上を続け、9月17日には伊豆諸島の八丈島付近を通過しました。その後、関東地方に接近しつつ、本州の東海上を進み、三陸沖を経て北海道の東海上へと北上を続けました。幸いにも関東地方への直接上陸は避けられ、首都圏の直撃も免れました。

高緯度にあたる北緯35度を超えた海域でも、その勢力は非常に強いままでした。このため、もしこの勢力で関東に上陸していた場合、極めて大きな被害が想定されました。あるシミュレーションによれば、東京湾では東京で2.1メートル、千葉市で3.3メートルといった、伊勢湾台風に匹敵するような記録的な高潮が発生する可能性が示唆されています。実際に関東で観測された潮位の上昇は、千葉県銚子市で77センチメートルの偏差に留まるなど、比較的軽微でした。しかし、台風の通過時、八丈島では中心気圧に近い932.4ヘクトパスカルという低い海面気圧が観測されました。これは関東地方で観測された最低海面気圧の記録を更新するものであり、台風の勢力の強さを示す記録となりました。

この台風のもう一つの顕著な特徴は、本州南岸に停滞していた前線との相互作用でした。台風から流れ込む大量の暖かく湿った空気が前線に向かって供給されたため、前線の活動が極めて活発化しました。結果として、東海地方から東北地方にかけての広い範囲で200ミリメートルを超える記録的な大雨が降りました。特に伊豆諸島や関東地方南部では顕著で、東京都三宅島では総降水量が390ミリメートル、千葉県大多喜町黒原では357ミリメートル、伊豆大島（大島町）では352ミリメートルを観測しました。また、千葉県勝浦市では一日の降水量が232ミリメートルに達するなど、多くの地点で大雨となりました。

風に関しても、三宅島で最大風速35.4メートル毎秒以上、最大瞬間風速55.4メートル毎秒以上、千葉県銚子市で最大風速31.7メートル毎秒、最大瞬間風速46.9メートル毎秒といった猛烈な暴風が観測されています。

この台風による全国での被害は、死者2名、行方不明者2名、負傷者28名に及びました。家屋への被害としては、住家全壊が19棟、半壊が36棟、また床上浸水が111棟発生しています。

平成7年台風第12号は、関東への直接上陸は避けられたものの、広大な強風域と停滞前線との相互作用による大雨、そして八丈島での記録的な低気圧など、その勢力と影響の大きさが特筆される台風でした。もしコースがわずかに違っていれば、首都圏に壊滅的な高潮被害をもたらす可能性も示唆されており、防災上の教訓を残した事例とも言えます。

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