平面幾何学式庭園

平面幾何学式庭園：フランス宮廷庭園の象徴

17世紀末、フランスで隆盛を極めた平面幾何学式庭園は、西洋庭園史における重要な転換点を示す造園様式です。イタリア式庭園の露壇式とは異なり、平地に幾何学的な構成を導入し、強い軸線を強調することで知られています。本稿では、その歴史的背景、設計の特徴、代表的な庭園、そしてヨーロッパ庭園史における影響を詳しく解説します。

アンドレ・ル・ノートルとフランス宮廷造園

この庭園様式を確立した中心人物は、アンドレ・ル・ノートルです。彼は、フランス宮廷建築家であるフランソワ・マンサール、ジュール・アルドゥアン＝マンサールと共に、17世紀フランスの宮殿建築と造園に革命を起こした三大巨匠の一人として数えられています。ル・ノートルは、ヴォー・ル・ヴィコント、ヴェルサイユ、シャンティー、ディジョンの庭園設計・実現で知られ、「王者の庭師」「庭園の王」と称されるほど、その名声はヨーロッパ全土に広まりました。

ル・ノートルの才能は、単なる庭園デザインの枠を超えて、ヨーロッパの都市計画にも影響を与えました。ヴェルサイユ宮殿の大庭園（約300ヘクタール）は、その代表例であり、建築式造園の到達点とされています。宮殿中央の「鏡の間」から南に伸びる「王の並木道」は、カナール（運河）へと繋がり、地平線まで続く壮大なヴィスタを作り出しています。

幾何学と秩序：庭園の特徴

平面幾何学式庭園は、幾何学的な秩序と対称性を重視したデザインが特徴です。主な構成要素と技法は次の通りです。

軸構成: 建物を起点とした力強い軸線を導入し、遠くまで見通せるヴィスタを形成。左右対称の構成が全体を支配します。
パルテール: 刺繍のような幾何学模様の花壇。ツゲなどの生垣で区画を区切り、色彩豊かな植物を配置することで、美しい対比を生み出します。
ボスケ: 樹林の中に小庭園を配することで、静寂で神秘的な空間を創出。
カナル: 広大な水面を装飾的に用いることで、庭園に雄大さを与えます。
トピアリー: 生垣や樹木を幾何学的に刈り込んだ装飾。
彫像: 庭園の空間を演出する装飾要素。
テラス: 建物を庭園と繋ぐ高低差のある空間。
高い生垣: 庭園を区画し、視覚的な効果を生み出す。
トレリス: 格子状の構造物で、つる植物を這わせる装飾。
パビリオン: 休憩や鑑賞のための建物。
パーゴラ: つる植物を這わせるための棚状の構造物。
シルバンシアター: 森の中に設けられた野外劇場。

これらの要素を組み合わせることで、壮大で秩序だった庭園空間が創り出されます。ヴェルサイユ宮殿庭園では、モリエール、リュリ、ラ・フォンテーヌなどの作品が上演され、社交の場としても活用されました。

ヨーロッパへの広がりと現代への影響

平面幾何学式庭園は、フランス宮廷を中心にヨーロッパ全土に広がり、多くの宮廷庭園に模倣されました。その直線的なデザインは、18世紀以降の都市計画にも影響を与えました。20世紀に入っても、イタリアやフランス形式の整形式庭園は、ダンバートン・オークスやブレナム宮殿などの庭園に見られるように、現代の庭園デザインに再導入されています。

まとめ

平面幾何学式庭園は、フランスの絶対王政期に生まれた、壮大で秩序だった庭園様式です。アンドレ・ル・ノートルを中心とした造園技術の粋を集め、幾何学的構成と強い軸線、そして多様な装飾要素によって、他に類を見ない庭園空間を創り出しました。その影響は、ヨーロッパ庭園史のみならず、都市計画にも及ぶ重要な造園様式と言えるでしょう。

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