幸堂得知

幸堂得知（こうどう とくち）は、天保14年（1843年）に生まれ、大正2年（1913年）に没した明治時代の文人です。本名は高橋利平といい、江戸の下谷車坂町で青物商を営む高橋彌平の息子として生を受けました。父の彌平は高橋夢叟という名で、『上野公園沿革史』を著した人物でもあります。

得知の作風は、黄表紙の流れを汲む軽妙な滑稽味が特徴で、多くの読者を魅了しました。また、彼は「江戸通人の風格」を持つ演劇通としても知られ、歌舞伎を中心とした演劇に関する深い知識と洞察力を持っていました。その見識を活かし、新聞紙上などで数多くの劇評を発表し、演劇界に大きな影響を与えました。

得知は文人仲間との交流も深く、特に饗庭篁村とは親しい間柄でした。彼らは共に根岸派と呼ばれるグループに属し、文学や芸術について意見を交換し、互いに刺激し合いました。根岸派は、従来の文学の形式にとらわれず、新しい表現を追求する革新的なグループとして知られていました。

得知の経歴を辿ると、明治2年（1869年）に三井両替店（後の三井銀行）に入社しています。その後、明治3年（1870年）には、上司であった鈴木利平の養子となりました。銀行員として働く傍ら、明治11年（1878年）頃から読売新聞に文章を発表するようになり、文筆家としての才能を開花させました。

明治21年（1888年）に三井銀行を退職してからは、本格的に文筆活動に専念するようになります。明治22年（1889年）以降は、その才能を活かして文筆で身を立て、明治24年（1891年）には東京朝日新聞に入社しました。さらに、明治25年（1892年）からは「歌舞伎新報」の編集にも携わり、演劇に関する知識や見識を深めるとともに、その普及に貢献しました。

大正2年（1913年）、幸堂得知は生涯を閉じました。彼の作品や評論は、明治時代の文学や演劇を研究する上で貴重な資料となっており、その功績は今日でも高く評価されています。彼の軽妙洒脱な文章は、時代を超えて多くの人々に愛され続けています。

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