幻の湖

映画『幻の湖』について

『幻の湖』は1982年に公開された日本映画で、橋本プロダクションによって制作されました。本作は、橋本忍が原作・脚本・監督を手がけ、東宝創立50周年を記念する作品として位置づけられています。特筆すべきは、主要なキャストを一般オーディションで選出した点で、1627人の応募者の中から南條玲子が道子役に決定し、映画デビューを果たしました。南條は、オーディション後すぐに徹底したランニングトレーニングを受け、撮影時にはなんと4,500キロも走るという徹底ぶりでした。

公開当初は、その難解なストーリーが要因となり、観客の足は伸びず、短期間で上映が打ち切られる結果となりました。その後、長い間映像ソフト化がされなかったため、本作は「幻の作品」として広く認識されるようになりました。しかし、1996年に『映画秘宝 vol.6』で取り上げられたことがきっかけとなり、少しずつ評価が変わり始めました。「笑えるトンデモ映画」としての地位が確立され、再上映の機会も増え、2003年にはDVDが発売されました。2010年代には、本作に対する肯定的な評価が多く見られるようになり、視点を変えた解釈がなされるようになりました。

ストーリー概要

物語は、雄琴のソープランドで「お市」という源氏名で働くソープ嬢の道子が中心です。彼女は愛犬のシロとともに琵琶湖の西岸でマラソンを走る日課を持っていますが、最近、葛篭尾崎の近くで不気味な笛の音が聞こえることに気づきます。そんな矢先、道子は愛犬のシロが殺されるのを目撃し、その復讐を果たすために東京へ乗り込むことを決意します。

道子は、かつて彼女の店に潜入した諜報員のローザから、凶悪な作曲家の日夏の人となりを聞き出します。日夏の趣味はジョギングであり、復讐を果たすために道子は走り続けることを決意します。復讐の日、日夏を追いかけるものの、道子は敗北感を抱えることになります。その後、道子は銀行員の倉田からプロポーズされ、彼との新たな未来を歩むことを決めますが、過去の悲劇は簡単には消え去りません。

道子は笛を吹いていた男、長尾と出会います。長尾は、道子に戦国時代の「お市」にまつわる悲しい物語を語り、その物語に深く感情移入した道子は涙するのです。この経験を通じて、彼女は自身の運命と哀しみを繋げることになります。

その後、道子は再び日夏と遭遇します。日夏が道子の働く店に現れると、道子は激しい復讐心に苛まれます。日夏と彼女の間で繰り広げられるマラソン対決は、一層過酷なものとなり、琵琶湖のほとりでの結末が待っています。

最終的に、道子は日夏に復讐を果たすことに成功しますが、それは同時に彼女自身の内なる葛藤と向き合うことでもありました。長尾は宇宙で笛を置き、琵琶湖の怨念を鎮めるという深い設定も含まれ、物語は複雑なテーマへと収束します。

作品の評価と影響

公開当初はとても難解とされ、多くの人に理解されることはありませんでしたが、後の評価においては「トンデモ映画」としての特色が認められ、特に特異な映像美が評価されています。また、監督の橋本忍自身もその後、作品の失敗について言及し、脚本の不条理さを反省する姿勢を示しています。

『幻の湖』は、その独自性ゆえに、創作への取り組みや映画表現の可能性を考えさせる作品として、今なお語り継がれています。

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