幻想曲K.397

モーツァルト 幻想曲 ニ短調 K.397 について

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1782年に作曲したピアノのための幻想曲、ニ短調 K.397（旧モーツァルト全集では第3番とされたため『幻想曲第3番』とも呼ばれる）は、彼の作品の中でも特に魅力的な楽曲の一つです。この作品は、モーツァルトがコンスタンツェ・ウェーバーと結婚し、オペラ『後宮からの誘拐』が大成功を収めた同じ年に作曲されました。

作品の背景と特徴

この幻想曲は、独立した楽曲として構想されたのではなく、ニ長調のピアノソナタへと続くことを想定して作曲されたと考えられています。様式的に、C.P.E.バッハの幻想曲からの影響が指摘されています。しかし、この作品の最大の特徴は、モーツァルト自身の手によって完成されていない点です。自筆譜も散逸しており、現在伝わる終結部分の10小節は、モーツァルトを敬愛していたアウグスト・エベルハルト・ミュラーによって書き加えられたものとされています。

興味深いことに、この終結部分に関して、ピアニストの中にはミュラーの補筆ではなく、独自の解釈に基づく終結を用いる者もいます。例えば、ピアニストの内田光子はフィリップス・レコードでの録音において、彼女自身が作曲した終結部分を使用しています。これは、この作品が持つ未完性という側面が、演奏者に創造的な解釈の余地を与えていることを示しています。

楽曲構成の詳細

楽曲は、アンダンテ、ニ短調、4分の4拍子（新モーツァルト全集では2分の2拍子）で開始します。バロック音楽を彷彿とさせるアルペジオの連続から始まり、フェルマータによる間を置いて、アダージョと指定されたアリア風の旋律が奏でられます。

その後、連続する二音から始まる中間楽節を挟んで、最初のアリア風の旋律が再び登場し、カデンツァのような走句が挿入されます。中間楽節が再び奏された後、再びカデンツァ風の動きを経て、もう一度アリア風の旋律が回帰します。そして、曲はアレグレット、ニ長調、4分の2拍子へと転じ、愛らしく無垢な旋律が現れます。

32分音符によるカデンツァ風のパッセージが再び現れた後、先の愛らしい旋律が回帰し、フェルマータ付きの休符が置かれ、最後の10小節は音量を上げながら簡潔に曲を締めくくります。

補足

この幻想曲の魅力は、そのドラマティックな展開と、未完であるがゆえに演奏者の解釈によって多様な表情を見せる点にあると言えるでしょう。モーツァルトの創造性の一端を垣間見ることができる、重要な作品の一つです。

出典
Hackmey, Efi (2012-04-30). Mozart's Unfinished Fantasy; Thoughts about the Fantasy in D minor.
Hirsch, Paul (1944). “A Mozart Problem”. Music and Letters (Oxford University Press) 25 (4): 209-212.
CD解説 Mozart: Piano Sonatas, Hyperion Records, CDA68029
CD解説 MOZART, W.A.: Organ Music, Naxos, 8.550514
楽譜 Mozart: Phantasie No. 3, Breitkopf & Härtel, Leipzig, 1878

外部リンク
『新モーツァルト全集』におけるFantasie in d KV 397の楽譜及び校訂報告 （ドイツ語）
幻想曲（第3番）ニ短調 K. 397 (385g)の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
幻想曲K.397 - オールミュージック

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