幼形進化

幼形進化とは

幼形進化（ようけいしんか、英語：pedomorphosis, paedomorphosis, juvenification）とは、発生生物学における現象の一つで、生物が祖先の幼体に見られる特徴的な形態や性質を保持したまま成熟する進化のことです。これは、個体の成長期間の短縮や発育の遅延によって生じ、既存の形質に新たな形質が付加される付加的進化とは逆の方向への進化と言えます。1922年にイギリスの動物学者ウォルター・ガースタングによって提唱され、そのメカニズムとして異時性（ヘテロクロニー）が深く関わっています。

幼形進化は、いくつかの異なる要因が単独で、あるいは複合的に作用することで発現します。主な要因として以下の3つが挙げられます。

ネオテニー（Neoteny）: 身体的な発達が遅れることで、結果として幼体の形態を保ったまま性的に成熟する現象です。
プロジェネシス（Progenesis）: 十分に成熟する前に発達が停止する現象です。
* ポストディスプレイスメント（Postdisplacement）: 発達の開始時期が遅れる現象です。

動物における幼形進化

幼形進化は、人間と共存する多くの動物種、例えばイヌ、ニワトリ、ブタ、ウシなどにも見られます。これらの動物における幼形進化は、人為的な選択や品種改良によって、従順さといった幼体の行動特性が利用されてきた結果であると考えられています。動物の権利を主張する人々の中には、このような現象を不自然と捉える向きもありますが、ネオテニー化は進化の一形態であり、幼少期の形質には高い学習能力といった利点があり、環境への適応において有利に働く場合があります。

自然界では、両生類、特にトラフサンショウウオ科やホライモリ科のサンショウウオの仲間で幼形進化がよく見られます。これらのサンショウウオの中には、成体になっても幼生時の特徴である鰓を保持している種が存在し、これは他の両生類にはあまり見られない特徴です。かつては鰓を失っていたと考えられるこれらのサンショウウオが、現在鰓を保持しているのは、進化的に有利であったか、あるいは影響がなかったためと考えられています。アメリカ・オレゴン州のクレーター湖におけるブラウンサラマンダーの個体数調査は、両生類における幼形進化を示す良い例です。

また、幼形進化はシロアリや一部のゴキブリの仲間でも確認されています。さらに、ボノボはネオテニー化したチンパンジーと言われることもあり、攻撃性が低く、学習意欲が高いことが特徴です。

植物における幼形進化

幼形進化は、植物においても確認されており、特に環境変化への迅速な適応のために起こると考えられています。オーストラリアからニュージーランドに分布するOreostylidium属の植物は、その一例です。この植物の花は、通常は特定の送粉者と結び付いていますが、必ずしもその送粉者に限定されるわけではありません。新しい送粉者からの圧力が不足することで、植物は未成熟な状態から急速に性的に成熟する進化を遂げ、幼形進化が促進されるという仮説があります。

幼形進化は、生物の進化における多様な戦略の一つであり、そのメカニズムの解明は、生物の進化の理解を深める上で重要な課題です。

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