床版

床版（しょうばん）

床版とは、橋梁構造において、最上部に位置し、車両や歩行者などからの交通荷重を直接受け止める板状の構造部材を指します。橋の「床」にあたる部分であり、その主要な機能は、この活荷重（生きた荷重、すなわち人や車両の重み）を、橋梁全体の骨組みである主桁や橋台、橋脚といった主要な構造要素へと安全かつ効率的に伝達することです。

役割と重要性

床版が受けた荷重は、床版を通じて主桁などに分散され、最終的に基礎へと伝えられます。この荷重伝達のメカニズムが適切に機能することで、橋梁全体の安全性が保たれます。もし床版に不具合が生じれば、荷重が計画通りに伝わらず、主構造に過大な負担がかかるだけでなく、交通の安全性そのものが損なわれる危険性があります。床版は、橋梁の耐久性や長期にわたる供用性能を左右する、極めて重要な構成要素なのです。

主な種類

床版には、橋梁の構造形式、架設される場所の地理的・環境的条件、求められる性能、経済性などを総合的に考慮して、様々な種類が用いられます。

コンクリート系床版

最も一般的で広く採用されています。

鉄筋コンクリート床版: コンクリートの中に鉄筋を配置した構造です。経済性に優れ、多くの橋梁で用いられます。
プレストレストコンクリート床版: 鋼材にあらかじめ引張力を与えた状態でコンクリートを打設することで、ひび割れの発生を抑制し、疲労耐久性を向上させた床版です。比較的大きな荷重や長い支間長にも対応可能です。
* 合成床版: 鋼部材とコンクリートを組み合わせて一体化させた構造です。鋼材の強度とコンクリートの剛性を組み合わせることで、高い性能を発揮します。鋼・コンクリート合成床版やPC合成床版などがあります。

鋼床版

鋼板を主要な部材とする床版です。軽量であるため、自重の軽減が求められる長大橋や吊橋、斜張橋などに有利です。急速施工が可能な点も特徴です。

その他の形式

特殊な用途や構造に対応するため、I形鋼を格子状に組んだI形鋼格子床版や、鋼材を格子状に組んだオープングレーチング床版などが用いられることもあります。

過積載と床版への影響

道路交通法では、車両の総重量や軸重などが厳しく制限されています。これは、道路構造物、特に橋梁の床版への過大な負担を防ぎ、その早期劣化や損傷を回避することを主な目的の一つとしています。車両の軸重が増加すると、床版に発生する応力やひずみは非線形的に増大することが知られており、構造への影響は著しく大きくなります。

例えば、一般的な制限値である軸重10トンの大型貨物自動車1台が床版上を走行することで与える構造への影響（疲労度など）は、軸重が20トンに倍増した車両がわずか1回走行することによって与えられる影響と比べて、約4,000回分の走行に相当するという試算があります。つまり、たった1台の過積載車両が、数千台もの適正荷重車両に匹敵するダメージを床版に与える可能性があるのです。このような過大な繰り返し荷重は、床版に疲労ひび割れを発生させ、舗装の損傷、さらには構造全体の寿命を著しく縮める原因となります。したがって、過積載の取締りは、床版を含む橋梁構造全体の健全性を維持し、安全な道路交通を確保するために極めて重要なのです。

床版は、橋梁の機能と安全を支える基盤であり、その適切な設計、施工、そして供用期間中の維持管理が、道路ネットワーク全体の信頼性にとって不可欠であると言えます。

• ---

もう一度検索