度胸星

度胸星（どきょうぼし）

漫画家・山田芳裕によって描かれたSF漫画作品。『週刊ヤングサンデー』にて、2000年から2001年にかけて連載されました。単行本はヤングサンデーコミックス版、小学館文庫版、そして講談社からKCデラックス版や新装版など、複数の形式で刊行されています。

ストーリー概要

物語の舞台は、1969年のアポロ計画から約50年余りが経過した未来。人類はついに火星への有人到達を果たします。NASAが推進する大規模な火星探査計画「第4惑星への計画（エンターフォー）」は順調に進んでいるかに見えました。しかしその矢先、突如として火星と地球間の通信が完全に途絶してしまいます。火星に取り残された可能性のある4名のクルーを救出するため、緊急の救出計画が発動され、そのための新たなクルーが全世界から募集されることになります。

日本では、当時の宇宙開発事業団（NASDA、現在のJAXAの前身組織であり、作中では発表当時の名称が用いられています）がクルー候補生を全国から募ります。この選抜試験に挑む一人の若者が、主人公であるトラック運転手の三河度胸です。彼は様々な背景を持つ個性的な仲間たちと共に、宇宙飛行士候補としての厳しい選抜試験や訓練を乗り越えていきます。

一方、火星の地では、奇跡的にただ一人生き残った宇宙飛行士スチュアートが、事故の原因となった正体不明の謎の物体「テセラック」と遭遇し、その正体を探りながら孤独で壮絶な戦いを繰り広げていました。

激しい選抜訓練と試験を突破し、NASAへの派遣が決定したのは、筑前智、市原茶々、石田友助の3名でした。主人公の度胸と、候補生の一人だった武田勇は、十数年後の火星探査を見据えたNASDAの別プログラムに参加し、衛星軌道上での作業などで経験を積んでいきます。

スチュアートらを救うべく火星へと旅立った第一次救出隊（ブラッドレー、ブロンソン、筑前、石田）も、やはり火星で「テセラック」に遭遇し、帰還船を破壊され、地球との交信手段を失ってしまいます。

二度にわたる火星計画の失敗は、莫大な税金を費やしたにも関わらず何も得られなかったとして、政治的な混乱を招きます。その結果、大統領選挙では計画推進派が敗れ、新たに選出された大統領は「第4惑星への計画」の打ち切り、すなわち救出クルーの救助放棄を宣言するのでした。

絶望的な状況が続く中、衛星軌道上に残っていた度胸、武田、市原らの元に、ロシアの宇宙機関の関係者であるハリコフから秘密裏の連絡が入ります。ロシアも独自に有人火星探査計画を進めており、公にはできない極秘の救助ミッションへの参加が持ちかけられたのです。度胸たちは、誰にも知られることなく、誰からも称賛されることもなく、地球上では行方不明扱いとなるであろう、過酷な秘密作戦への参加を決意します。彼らを乗せたロケットが、ロシアのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられるところで、物語は終了します。

主要な要素

主要登場人物

物語の中心には、亡き父の夢を叶えるため、純朴ながらも強い意志を持つトラック運転手の三河度胸がいます。彼と共に試練に立ち向かうのは、要領の良い筑前智、心を読む能力に悩む市原茶々、若くして天才的な才能を持つ石田友助、そして度胸との出会いを経て変化する元ヤクザの武田勇など、個性豊かな候補生たちです。火星では、謎の存在に一人立ち向かうタフな宇宙飛行士スチュアートが描かれます。

テセラック

本作最大の謎であり脅威となるのが、火星に突如出現する正体不明の物体「テセラック」です。立体的な影を持ち、離れた場所の物体を破壊したり、生物や構造物を歪めたり内部と外部を反転させるかのように変形させるなど、常識を超えた能力を発揮します。スチュアートは、これが我々が認識できる3次元に加えて虚軸を持つ、高次元の存在ではないかと推測します。その形状は変化し、理解不能な宇宙の脅威として描かれています。

作品の背景と特徴

『度胸星』は、綿密な宇宙開発描写と、人間ドラマ、そして予測不能なSF要素が融合した意欲作として知られています。しかし、連載されていた『週刊ヤングサンデー』の編集方針変更などの事情により、物語は志半ばで打ち切りという形で終了しました。作者である山田芳裕氏は、打ち切り後の続編執筆には現在のところ意欲を示していません。

本作は、その未完ながらも強い印象を残すストーリーと、魅力的なキャラクター、そしてハードなSF描写によって、多くの読者に記憶されています。

書誌情報

ヤングサンデーコミックス版（小学館）全4巻
小学館文庫版（小学館）全3巻
モーニングKCデラックス版（講談社）全4巻
モーニングKCデラックス新装版（講談社）全4巻

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