延徳春

延徳春（ヨン・ドクチュン）：韓国ゴルフ界のパイオニア

延徳春（ヨン・ドクチュン、연덕춘、1916年 - 2004年）は、20世紀前半の日本と韓国で活躍した、朝鮮半島出身のプロゴルファーです。彼は、朝鮮半島初のプロゴルファーとして、また、戦前の最後の日本オープンゴルフ選手権競技（1941年）の優勝者として、その名を知られています。戦後、韓国におけるプロゴルフの組織づくりに尽力したことから、「韓国プロゴルフの父」とも呼ばれています。

生涯

生い立ちと戦前の活動

1916年、京畿道高陽郡纛島面（現在のソウル特別市城東区トゥクソム付近）に農家の息子として生まれました。1930年、近所に京城ゴルフ倶楽部の君子里コースが開設されたことが、延徳春とゴルフとの出会いでした。親族が君子里コースでマスターキャディを務めていた縁で、1932年、16歳でキャディのアシスタントを始めます。

京城ゴルフ倶楽部では、日本人のプロが会員やキャディにゴルフを指導しており、延徳春もその恩恵を受けました。彼は急速にゴルフの腕を上げ、京城ゴルフ倶楽部では彼を本格的な選手として育成する機運が高まりました。1934年、彼は日本へゴルフ留学し、藤沢カントリー倶楽部で中村寅吉の指導を受けました。1935年には関東プロゴルフ協会のプロゴルファーテストに合格し、朝鮮半島初のプロゴルファーとなったのです。

プロゴルファーとなった延徳春は、京城ゴルフ倶楽部にクラブプロとして所属しました。1936年には、兄夫婦の事故死により、2人の甥の面倒を見ることになりました。同年には結婚し、5人の実子にも恵まれました。

1941年、程ヶ谷カントリー倶楽部で開催された日本オープンゴルフ選手権競技で、浅見緑蔵、陳清水、中村寅吉、孫士鈞（のちの小野光一）といった強豪を破り、見事優勝を果たしました。優勝カップは玄界灘を渡り、京城駅前には大勢の歓迎者が集まりました。彼を長年支援してきた富野繁一（朝鮮ゴルフ連盟常務理事）も感激し、2連覇への期待を寄せました。しかし、この大会が戦前最後の日本オープンとなってしまいました。1942年には、日本プロ選手権で2位の成績を収めています。

1943年、ゴルフ場は閉鎖され、延徳春は職を失いました。

戦後韓国での活動

第二次世界大戦により、かつての君子里コースは荒廃し、戦後の韓国にはゴルフを顧みる余裕はありませんでした。1950年5月、君子里コースはアメリカ軍の支援を受けて復旧されましたが、間もなく朝鮮戦争が勃発。延徳春自身も、朝鮮戦争で長男と養女を失うという悲劇に見舞われました。

1954年、君子里コースはソウルカントリークラブとして再開されました。1956年には、第4回カナダカップ（ワールドカップの前身）にパク・ミョンチュルと共に出場。1958年6月には、ソウルカントリークラブで開催された第1回韓国プロゴルフ選手権に出場し、初代優勝者となりました。

その後、1963年にプロ選手の親睦団体として「プロゴルフ会」を設立。1968年には政財界の支援を取り付け、韓国プロゴルフ協会（KPGA）の設立に大きく貢献しました。1972年には、KPGA第2代会長に就任し、ゴルフ界の業務に携わるとともに、選手としても活動を続け、多くの後進を指導しました。

遺産

日本オープンゴルフ選手権競技で使用されていた優勝カップは、1941年の大会で優勝した延徳春によって京城に持ち帰られた後、行方不明となっています。戦時中に地中に埋められた、あるいは銀器供出の対象になったなど、様々な憶測が飛び交っています。

彼が使用したゴルフクラブ4点（イギリス製のロングアイアン、ショート、パター、ドライバー）は天安市の独立紀念館に寄贈され、韓国の登録文化財第500号に登録されています。

延徳春が韓国で育てたプロ選手の一人である韓長相は、1972年の日本オープンで韓国人選手として延徳春以来の優勝を果たしました。

延徳春は、韓国ゴルフ界の発展に大きく貢献した人物として、今もなお尊敬を集めています。彼が設立に尽力した韓国プロゴルフ協会が授与する年間最少スコア賞は、「徳春賞」として彼の功績を記念しています。

もう一度検索