弁護士賠償責任保険

弁護士賠償責任保険：弁護士の業務ミスによる損害をカバー

弁護士賠償責任保険は、弁護士業務における過失やミスによって依頼者に経済的損害が生じた場合に、弁護士の賠償責任を補償する保険です。専門職業人賠償責任保険の一種に分類され、弁護士の業務リスク軽減に不可欠な存在となっています。

保険契約者と被保険者

保険契約者は、全国弁護士協同組合連合会や弁護士会、個々の弁護士事務所などです。被保険者は原則として弁護士個人ですが、弁護士法人に所属する弁護士の場合は、その弁護士の業務に関する限り、弁護士法人自体も被保険者として追加されます。さらに、弁護士の補助者などが過失で損害を与えた場合も、保険会社は故意でない限り求償権を行使しないため、間接的にこれらの者も保障の対象となります。

保険期間と賠償請求期間

この保険では、弁護士の過失行為を保険事故と定義し、その発生日を事故日とします。重要なのは、事故日が保険期間（通常1年間）内であるだけでなく、それに続く5年間または10年間（契約による）の賠償請求期間内に損害賠償請求がなされる必要がある点です。これは、いわゆる「テールカバー」と呼ばれる条件で、事後的に発生する賠償請求にも対応できる仕組みとなっています。

補償される損害

この保険は、弁護士が業務遂行中に他人に損害を与えたことにより、法律上の損害賠償責任を負うことになった場合の損害を補償します。これは、積極的な行為だけでなく、不作為（怠慢）による損害も含まれます。損害賠償責任の有無や賠償額については、弁護士などの専門家から構成される審査会で審査されます。

補償の対象となる弁護士業務は、弁護士法第3条に規定されている業務が中心です。具体的には、後見人、保佐人、補助人、財産管理人など、弁護士が様々な法的資格に基づいて行う業務が含まれます。ただし、弁護士が公務員や法人の役員として行う業務は対象外となります。

免責事項

保険は、全ての事態をカバーするわけではありません。主な免責事項として、以下の点が挙げられます。

故意による行為: これは損害保険全般に共通する絶対的な免責事項です。
犯罪行為: 被保険者の犯罪行為（過失犯を除く）や、損害発生を予見しながら行った行為は免責となります。
公務員・法人役員としての行為: 弁護士が公務員や法人の役員として行った行為による損害は補償されません。
身体障害・財物損壊: 他人の身体障害や財物損壊は原則免責ですが、証拠書類・証拠物の損壊や執行行為に付随して生じた財物損壊は除外されます。
約定による責任の加重: 他人との契約によって加重された責任は、通常は補償されません。
被保険者所有財物の損壊: 被保険者が所有・使用・管理する財物の損壊も免責事項です。ただし、受託者特約条項や運送保険の付帯によって補償される場合があります。

事故例

具体的な事故例としては、以下の様なケースが挙げられます。

期限徒過: 上告理由書提出期限や控訴期限、破産債権届出期限などの期限を遵守しなかった場合。
法令適用誤り: 時効等の抗弁を見落としたり、判例を軽視して訴訟を行い敗訴した場合。
* 業務上の怠慢: 仮差押をすべきなのに怠り、債権回収の機会を失った場合など。

弁護士賠償責任保険は、弁護士の業務におけるリスクを軽減し、依頼者への損害を補償するための重要な制度です。弁護士は、この保険に加入することで、自身の業務の安全性を高め、依頼者への信頼を維持することができます。

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