式日

映画『式日』の概要

『式日』（しきじつ）は、2000年に公開された庵野秀明監督の日本映画であり、作品タイトルは「儀式を行う日」を意味しています。本作は、映像作家として成功を収めた主人公「カントク」と、過去に絶望する少女の心の旅を描いた芸術性の高い作品です。

あらすじ

物語は、主人公カントクが故郷の宇部市に里帰りするところから始まります。ネルシャッターが降りた街並みと、コンクリート製の電柱が立ち並ぶ寂しい風景の中、彼は線路に横たわる赤いブラウスを着た若い女性に出会います。女性は「明日は私の誕生日なの」と語り、カントクは彼女の日常を映像に収め始めます。

この女性は、毎朝6時にスカイビルの屋上に昇り、身を投げる決意を固める「儀式」を繰り返し、彼女の心には母親への怨念や姉への嫉妬、喪失感といった深い苦悩が秘められていました。二人の関係が深まるにつれ、カントクは初めは単なる被写体として捉えていた彼女を、次第に心に抱える問題を真剣に考えるようになります。

背景と制作

『式日』は、スタジオジブリの第2レーベルとして設立されたスタジオカジノによる作品であり、同社の第一作目です。この作品は、一般的なエンターテインメントではなく、特定の鑑賞者に響くことを目的とした芸術作品です。監督の庵野は、自身の描く映像が持つ価値を信じ、「100人中1人が良かったと思える映画作り」を心がけました。

制作にあたっては、松蔭浩之や藤谷文子との密接なコラボレーションがあり、特に原作小説『逃避夢』からインスパイアを受けた点にはこだわりが見られます。庵野は、原作を忠実に映像化するのではなく、登場人物の内面の孤独と苦悩を反映する新たなストーリーを生み出しました。

撮影

本作は、庵野の故郷である山口県宇部市を舞台に製作されました。特筆すべきは、庵野が映像の質感に強いこだわりを持ち、美術や色彩において独特の表現を追求した点です。また、使用したフィルムやレンズまで庵野が選び抜き、映像の美しさを最大限に引き出しました。

撮影は、既定の場所で行うという庵野の厳格な監督方針のもと、キャストたちが自由に演じる場面もあり、役者たちは自分自身としてその空間を生かした演技を追求しました。このような呼応によって、本作は深い感情と共感を呼び起こす映像言語を築き上げました。

評価と影響

公開後、映画は高い評価を得て、東京国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞しました。藤谷文子をはじめとするキャストや、製作に関与した鈴木敏夫たちは、その独自の視点や真摯な姿勢に感謝の意を表しました。庵野の作品が持つ精神的深みや、彼の映像表現は、同時期に人気を博した『新世紀エヴァンゲリオン』にも影響を与えたとされています。このように、『式日』は、単なる映画ではなく、一つのアート作品として後世に語り継がれるべき重要な作品です。

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