弦楽四重奏曲第23番 (モーツァルト)

弦楽四重奏曲第23番 ヘ長調 K. 590

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって1790年に書かれた弦楽四重奏曲です。これは、彼が手掛けたこのジャンルにおける最後の作品となりました。『プロシャ王セット』と呼ばれる3曲の四重奏曲の掉尾を飾る作品であり、『プロシャ王第3番』とも称されます。

概要

モーツァルト自身の作品目録によると、本作は1790年6月、ウィーンで完成されたと記録されています（具体的な日付は記載されていません）。先行する第21番（K. 575）や第22番（K. 589）に続いて作曲され、これらの作品とほぼ同時期に完成に至ったと見られます。

これらの作品は、チェロを演奏したプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世からの依頼により、「チェロの扱いを容易に」という条件で6曲作曲されるはずだった、という説があります。しかし、第21番（K. 575）のように自作品目録に「プロイセン王のために」との記載がないこと、またプロイセン側からの裏付けとなる資料が見つかっていないことから、この依頼説には疑問を呈する研究者もいます。

興味深いことに、モーツァルトは第21番と第22番ではチェロに華やかなパッセージを与えていましたが、本作では第2楽章以降、チェロが主役となる場面が減少しています。

これらの四重奏曲は、最終的にモーツァルトが妻コンスタンツェの療養費用を捻出するため、出版者のアルタリアに売却されました。モーツァルトは翌年の1791年12月に世を去り、その後間もなく、この3曲の四重奏曲が出版されました。

構成

全4楽章で構成され、標準的な演奏時間は約26分です。

第1楽章：アレグロ・モデラート

ヘ長調、4分の4拍子、ソナタ形式で書かれています。

この楽章は、4つの楽器が完全に同じ音を奏でるユニゾンで開始されます。モーツァルトの弦楽四重奏曲において、冒頭がユニゾンで始まるのは珍しい例で（全23曲中4曲のみ）、特にこの「プロシャ王セット」の中では初めての試みです。第1主題は、主和音の分散和音を上昇し、一気に駆け下りるような特徴的な旋律です。続いてチェロが独奏的なパッセージで冒頭の主題を繰り返し提示した後、ハ長調で穏やかな第2主題が歌い上げられます。コーダは、まるで空中に飛び去るかのように静かに消え入ります。

第2楽章：アンダンテ

ハ長調、8分の6拍子。自筆譜では「アンダンテ」と記されていますが、初版譜では「アレグレット」に変更されています。

この楽章は、冒頭8小節間、4つの楽器がユニゾンで提示する和音進行から始まります。この和音進行はやがて伴奏形へと姿を変え、その上に瞑想的な旋律が展開されます。主題は繰り返される変奏によって深められていきます。

第3楽章：メヌエット：アレグレット - トリオ

ヘ長調、4分の3拍子。

このメヌエット楽章は、「3つの4分音符とそれに続く6つの8分音符」という特定のリズムパターンを中心として展開されます。この特徴的なリズムが楽章全体を支配し、躍動感と優雅さを兼ね備えた音楽を生み出しています。

第4楽章：アレグロ

ヘ長調、4分の2拍子、ロンドソナタ形式。

終楽章は、まるで小さな渦が延々と続いていくかのような、無窮動的なモティーフが中心に置かれたロンドソナタ形式で書かれています。この軽快で動きのあるモティーフが楽章全体を駆け巡り、華やかなフィナーレを飾ります。

参考文献

モーツァルト自身の作品目録
関連する音楽史研究文献

外部リンク

[国際楽譜ライブラリープロジェクト]にある楽譜情報
Mozart con graziaによる作品解説

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