弱強磁性

弱強磁性：反強磁性と微弱な強磁性の共存

弱強磁性とは、物質が示す磁気現象の一つで、反強磁性転移と同時に微弱な強磁性も現れる現象です。かつては寄生強磁性とも呼ばれていましたが、現在ではその機構解明が進み、傾角反強磁性と呼ばれることもあります。両者の概念は完全に一致するわけではありませんが、弱強磁性体の多くは傾角反強磁性体と言えるでしょう。

弱強磁性体の特徴は、反強磁性転移温度以下で、ごく微量の強磁性体が混入したかのような磁性を示す点にあります。具体的には、磁化過程において、低磁場ではヒステリシスを伴う急激な飽和磁化を示しますが、その飽和磁化は通常の強磁性体よりもはるかに小さいです。高磁場では、反強磁性体的な挙動を示しますが、低磁場側の強磁性成分の影響で磁化はかさ上げされます。しかし、この強磁性は不純物によるものではなく、反強磁性転移温度と完全に一致する転移温度で現れることが特徴です。

弱強磁性の発生機構

当初、格子欠陥に隣接するスピンが余剰となり、強磁性を示すと考えられていましたが、自発磁化の大きさが格子欠陥量に依存しないことから、このモデルは否定されました。

現在では、弱強磁性の主要な原因として、以下の二つの相互作用が挙げられています。

1. ジャロシンスキー-守谷相互作用 (DM相互作用)

1958年、ジャロシンスキーはα-Fe₂O₃、MnCO₃、CoCO₃などの弱強磁性体の挙動を説明する理論を発表しました。彼の考察によると、結晶の対称性により、スピンが完全に反平行ではなく、わずかに傾いた状態でも許容される場合があります。通常の反強磁性では二つの副格子が完全に逆向きにスピンを向けていますが、結晶対称性によっては、わずかに角度がずれることがあり、このずれが自発磁化として現れます。これが傾角反強磁性の起源です。

その後、守谷は分子軌道論に基づき、このわずかなスピン傾斜を引き起こす相互作用を微視的に説明しました。通常の交換相互作用はスピンの内積に比例しますが、スピン軌道相互作用を考慮した2次の摂動では、スピンの外積に比例する項が現れ、スピンが90度を向いた時にエネルギーが最小となります。この相互作用がジャロシンスキー-守谷相互作用です。実際の系では、DM相互作用と通常の交換相互作用が競合し、スピンの角度は両者の強さの比によって決まります。DM相互作用は、相互作用する2スピンサイト間に反転対称性がない場合にのみ働きます。

2. 1イオン異方性

単位格子内に、異なる方向を向いたスピン源が複数存在する場合も、弱強磁性が生じます。例えば、異方性軸が異なる二つの錯体が反強磁性的に相互作用する系を考えてみましょう。それぞれの錯体は、自身の異方性軸方向を向こうとしますが、反強磁性相互作用のため、逆方向を向く必要があります。これらの競合により、スピンは両者の中間的な方向を向きます。この微妙な傾きが、弱強磁性を生み出すのです。ただし、この場合もDM相互作用が同時に働いている可能性があります。

その他の原因

上記の他にも、様々な相互作用の競合、わずかなキャリアによる強磁性、g値のわずかな違いなどによって弱強磁性が生じる可能性があります。

まとめ

弱強磁性は、反強磁性と微弱な強磁性が共存する複雑な磁気現象です。その発生機構は、ジャロシンスキー-守谷相互作用や1イオン異方性など、複数の要因が複雑に絡み合っています。今後の研究により、より詳細な理解が進むことが期待されます。

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