弱視

弱視：その定義、原因、種類、治療、そして社会生活への影響

はじめに

「弱視」という用語は、医学的な文脈では「医学的弱視（amblyopia）」を指すことが一般的です。しかし、日本においては、長年に渡り「一定以下の視力を持つ者を全て弱視とする」という定義も存在し、学校保健法などにも反映されています。この定義は、視力低下の原因に関わらず、一定の視力基準を下回る者を包含し、「社会的弱視」または「ロービジョン」と呼ばれることもあります。医学的弱視と社会的弱視は、場合によっては包含関係にあります。

弱視の定義：多様な解釈の歴史と現代の理解

弱視の定義は時代と共に変遷してきました。1960年代には、器質的変化がない、もしくはそれだけでは説明できない視力低下を指す定義が一般的でした。その後、視機能の発達過程における先天性または後天性の障害による視的条件付けの異常を強調する定義が登場しました。さらに、検査で明らかな原因が発見できず、治療により視力が回復する可能性のある片眼性視力低下という定義も提唱されました。現在では、視覚の発達期における視覚刺激の遮断や異常な両眼相互作用によって引き起こされる片眼または両眼の視力低下で、眼の検査で器質的病変がなく、適切な予防・治療が可能な状態を指す定義が広く受け入れられています。

弱視の成因：視覚感受性期間と様々な要因

弱視の成因解明には、動物実験による研究が大きく貢献しました。生後数ヶ月の子猫の一方の目を縫合することで、視覚皮質の発達不全を引き起こすことが確認され、視覚の感受性期間（critical period）の存在が明らかになりました。ヒトの視覚感受性期間はおおよそ生後7～9歳までとされ、2ヶ月から2歳頃が最も感受性が高いとされています。この期間に、視覚刺激の遮断（例えば、黄斑部のデフォーカス、形態覚遮断、不同視、屈折異常など）や異常な両眼相互作用（斜視、微小角斜視など）が、弱視の発症に繋がります。

弱視の種類：多様な原因による視力低下

弱視は、その原因によっていくつかの種類に分類されます。

形態覚遮断弱視（視性刺激遮断弱視）:先天白内障、先天性眼瞼下垂、治療目的の眼帯装着などが原因で、形態覚刺激が遮断されることによって発生します。近年、弱視のメカニズム解明に伴い、小児への片眼眼帯装用の必要性は減少し、眼帯による弱視発生も減少傾向にあります。
斜視弱視:斜視の存在、または既往が原因で、眼に器質的変化がないにも関わらず、一方の眼の視力が低下する状態です。斜視による網膜へのデフォーカスや抑制機構の異常が原因と考えられています。
微小角斜視弱視:10プリズム以下の小さな眼位異常を伴い、網膜対応異常が見られることが多い弱視です。斜視の角度が小さいことから、早期発見が困難で、不同視弱視と誤診されるケースもあります。
不同視弱視:両眼の屈折値に差があり、屈折異常の強い方の眼の視力が低下する状態です。屈折異常による網膜中心窩へのデフォーカスが原因となります。
* 屈折異常弱視:屈折異常による網膜中心窩へのデフォーカスが原因で、両眼の視力が低下する状態です。高度遠視の場合に該当することが多く、強度近視では器質的要因が関与するケースが多いです。

弱視の治療：早期発見と適切な介入が重要

弱視の治療は、年齢が小さいほど効果的です。0～7歳くらいまでに発見できれば改善しやすいですが、大人の弱視は治療が困難です。感受性期である5～6歳頃までは、眼鏡、視能訓練、遮蔽療法（アイパッチやアトロピン点眼など）によって視力の回復が期待できます。近年では、両眼を開けたまま治療できるオクルパッドも使用されています。遮蔽療法には皮膚炎や結膜炎などの副作用、精神的な影響も考慮する必要があります。

幼児期における弱視：3歳児健診の重要性

不同視弱視などでは、生まれたときから片眼の視力が低下しているため、本人も親も気づかないまま成長することがあります。そのため、小学校の入学健診で初めて弱視が発見されるケースも少なくありません。治療の有効年齢は個人差がありますが、おおよそ5～6歳までです。3歳児健診で眼の異常を発見することは非常に重要であり、関係団体は早期発見のための啓発活動に力を入れています。

保険制度の対応：眼鏡等の費用負担軽減

弱視の治療において眼鏡は重要な治療用器具であり、回復度合いに合わせて度数を調整する必要があります。乳幼児期は眼鏡の破損や紛失のリスクが高く、費用負担も大きいため、2006年4月からは、9歳未満の特定の弱視に対して眼鏡やコンタクトレンズの療養費給付が実施されています。

社会生活への影響：ロービジョンとの関連

弱視による社会生活への影響については、ロービジョン（社会的弱視）に関する情報も参照ください。

結論

弱視は、視覚の発達段階に起こる様々な要因によって引き起こされる視力低下です。早期発見と適切な治療が重要であり、特に幼児期の健診は不可欠です。眼鏡や視能訓練、遮蔽療法などの治療法があり、近年は保険制度による経済的負担軽減策も整備されています。社会生活への影響についても、ロービジョンに関する情報を参照しながら、個々の状況に応じた対応が必要です。

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