弾道弾迎撃ミサイル制限条約

弾道弾迎撃ミサイル制限条約について

弾道弾迎撃ミサイル制限条約（ABM条約）は、1972年にアメリカとソ連の間で結ばれた重要な軍備制限の取り決めです。この条約は、両国が弾道弾迎撃ミサイルの配備を制限することを目的としており、冷戦期の核抑止力をどう維持するかという課題に対する回答の一つとして発展しました。

背景

冷戦時代、アメリカとソ連は互いに核兵器を強化していました。核兵器の増強が続く中で、両国は軍備拡大の危険性を認識しました。そのため、1960年代後半から軍備制限の交渉が始まったのです。この時期には、1963年の部分的核実験禁止条約や1968年の核拡散防止条約が設立され、軍備に関する議論が活発化しました。

両国は、1960年代までに攻撃用の大陸間弾道ミサイルに限らず、弾道弾迎撃ミサイルの開発にも成功しました。このミサイルは、敵の弾道ミサイルの攻撃を防ぐ能力を持つもので、その存在によって相手の弾道ミサイルの効果を低下させることが可能でした。この結果、弾道ミサイルの配備数を増やす動きが加速されたのです。

条約の締結

ABM条約は、1972年5月にモスクワで締結され、同年10月に効力を発揮しました。この条約では、米ソ両国に対して、弾道弾迎撃ミサイルの配備基地をそれぞれ首都および一つのミサイル基地の2箇所に限定することが定められました。さらに、1974年7月の修正により、配備基地を1箇所に制限することが決定されました。結果、アメリカはノースダコタ州のグランドフォークス空軍基地に、ソ連はモスクワ近郊にミサイルを配置しましたが、アメリカの基地は後に運用を停止しました。

軍備制限の後

1980年代には、アメリカで戦略防衛構想が提案され、これがABM条約に及ぼす影響が検討されました。この計画では、ミサイルを用いるのではなく、レーザーやビームによる迎撃が考えられており、条約違反にはあたらないとの解釈がされました。しかし、この戦略は実際には実用化されることはありませんでした。

1990年代に入ると、中小国においても弾道ミサイルの開発が進みました。それに対するアメリカの防衛策は、ABM条約との関係で論争を引き起こしました。アメリカがミサイル防衛の研究を進めたことで、ロシアからの批判が強まりましたが、アメリカはABM条約の枠組みに収まらないミサイル防衛を推進し、2002年にこの条約からの脱退を決定しました。

ABM条約は、冷戦期における軍備制限と核抑止力の構築に寄与した重要な出来事であり、歴史的な背景を理解するために欠かせない文書です。この条約の意義は、核兵器の危険性を減少させるための国際的な努力の象徴でもあります。

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