影男

影男

江戸川乱歩が手掛けた『影男』は、深い謎と緊迫感に満ちたスリラー小説です。本作は、数々の顔を持つ主人公「影男」を中心に展開し、彼の非凡な才能と心理的葛藤を描き出しています。

あらすじ

影男と呼ばれる男は、神出鬼没で裏社会の内幕に通じている謎多き存在です。彼は、会社社長や慈善家、さらには遊戯紳士といった多くの異なる顔を持ち、犯罪者の上前をはねたり、小説家としてもその才能を発揮するなど、様々な生活を送っています。

そんなある日、影男は須原という男から、「殺人請負会社」への参加を募られます。初めは自分のアイディアを提供することで須原と関係を持ちますが、次第に殺の概念が自己の信念に反することを認識するようになります。影男は自身の手によって人を殺すことはできず、須原との距離ができてしまいます。その後、須原は影男を復讐対象にし、自らの命を脅かす新たなアイディアを彼に依頼します。

背景と解説

この作品は、1955年に光文社の「面白倶楽部」に連載されたもので、名探偵・明智小五郎が登場する明智作品の一つでもあります。乱歩はこの作品以後、成人向けの作品に明智を登場させておらず、この作品が最後の大人向け内容の明智作品となりました。物語の中で明智はほとんど登場せず、影男の犯罪者としての物語が中心に描かれます。

影男というキャラクターは、変装の名手で他人の秘密を探ることに興味を持ち、その性格は乱歩の他の作品に見られるキャラクターたちに由来しています。彼は、殺人請負業や様々なトリックを駆使し、犯罪の道を探求しながらも、道徳的なジレンマと向き合うことになります。

本作の特徴的な点は、影男が実際に女性の姿に変装する場面があることです。これは、他の乱歩作品における男性キャラクターの変装の描写とは異なる点です。さらに、影男の創造力による殺人や密室トリックが物語を引き立てており、主人公自身が自らの考案した方法によって命を脅かされるという皮肉的な構図が存在します。

主要登場人物

• - 影男（本名不明、33歳）：本作の主人公。手品や曲芸を得意とし、変装の名人。周囲の人々に影響を与えつつも、自己の道徳と向き合う。
• - 須原正（すはら ただし）：影男と共に「殺人請負会社」を運営する男。影男のアイディアを利用しようとするが、彼に対して恨みを抱く。
• - 明智小五郎：民間の名探偵。影男と須原の行動には興味を持っており、物語の進行において関与する。

本作を通じて、江戸川乱歩は犯罪と道徳の境界線、そして人間の内面に潜む複雑な感情を見事に描写しています。影男の物語は、単なる犯罪の物語に留まらず、読み手に深い考察を促します。

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