彼は秘密の女ともだち

2014年に公開されたフランスのドラマ映画で、著名なミステリー作家ルース・レンデルの短編小説『女ともだち』を、『8人の女たち』や『スイミング・プール』などで知られるフランソワ・オゾン監督が独自の解釈で映像化しました。愛する妻を突然失った男性が、その深い悲しみの中で自身の内なる性別違和に気づき、亡き妻の最も親しい友人との複雑な関係性を築いていく過程を、静謐ながらも衝撃的な展開で描きます。喪失、友情、そして自己のあり方を深く探求する作品として、見る者に様々な問いを投げかけます。

物語

物語は、27歳という若さでこの世を去ったローラという女性の葬儀から始まります。純白のウェディングドレスに身を包んだローラの傍らで、彼女の幼い頃からの大親友であるクレールが弔辞を読み上げています。二人は7歳の時に出会って以来、青春を共に過ごし、互いに恋をし、そしてそれぞれが家庭を持ちました。ローラはダヴィッドと、クレールはジルと結婚し、当然のように互いのブライズメイドを務め合いました。病を抱えながらも娘リュシーを出産したローラは、クレールをリュシーの後見人（代母）に指名していました。弔辞の中で、クレールはローラの夫であるダヴィッドと幼いリュシーを今後も見守っていくことを誓います。

数週間が経過し、ローラの死による悲しみから立ち直れずにいるクレールを案じた夫のジルは、ダヴィッドの家を訪れるよう促します。ダヴィッドからの応答がないことを不審に思ったクレールが、鍵のかかっていないドアからそっと中に入ると、そこには意外な光景が広がっていました。リュシーの世話をしていたのは、女性の衣服を身にまとったダヴィッドだったのです。

ダヴィッドは以前から女性の格好をすることに興味があり、ローラもその事実を知った上で彼と結婚していました。結婚してからは、ローラの魅力的な女性らしさに満たされていたためか、女装することはありませんでした。しかし、ローラの死後、娘のリュシーをあやす際に、かつてローラの愛用品だった衣服に触れたことをきっかけに、その隠していた欲求が再燃し、ローラの残した服を身につけるようになっていたのです。

ダヴィッドは、偶然にもその姿を目撃してしまったクレールに、このことを誰にも話さないよう強く口止めすると同時に、女性の格好で外出する際の付き添い役となることを求めます。突然の告白に驚きを隠せないクレールは、その場から逃げるように自宅に戻ります。しかし、その後ダヴィッドから連絡が入るたびに、夫のジルに怪しまれないよう、スマートフォンの登録名を「ヴィルジニア」と偽ります。これが、ダヴィッドの別の人格、「ヴィルジニア」の誕生であり、クレールとヴィルジニア（ダヴィッド）の秘密の関係の始まりとなります。

ヴィルジニアとして初めて街へ繰り出したダヴィッドは、社会の中で女性として扱われるという、それまで体験したことのない刺激的な感覚を覚えます。二人はさらに、ローラの思い出が詰まった実家の別荘へ旅行に出かけ、在りし日のローラに思いを馳せながら、友人として過ごします。夜には、現地のナイトクラブ「アマゾーヌ」を訪れます。そこで「私は女」という歌詞に合わせて情熱的に踊るニューハーフのダンサーたちの姿を見たダヴィッドは、自身の内なる感情が揺さぶられ、涙を流します。

しかし、夫ジルに嘘をついて外出していたクレールの行動が露見し、ジルはクレールが他の男性と不倫しているのではないかと疑いを抱いてしまいます。身の潔白を証明し、夫との誤解を解くため、クレールは苦肉の策として、ダヴィッドが男性に関心があるとジルに嘘をつき、三人で共に食事をする場を設けます。この食事会を経て、ジルとダヴィッドは友人として再び良好な関係を築き、またリュシーの無邪気な姿を見たクレール夫妻は、自分たちも子供を持ちたいという思いを強くします。

一方、ダヴィッドは自身の性自認に関する感情を抑えきれなくなり、同時にクレールへの特別な感情も募らせていきます。クレールもまた、ダヴィッド（あるいはヴィルジニア）の内面を知るにつれて、彼が一体何者なのかという混乱が深まり、ジルとダヴィッドが親密な関係を持つという不可解な幻覚を見るようになります。感情が交錯する中、クレールとヴィルジニアとして女装したダヴィッドは、かつて登録名に使った「ホテル・ヴィルジニア」で再会し、情熱的な愛撫を交わしますが、理性を取り戻したクレールはダヴィッドを拒絶してしまいます。感情が高ぶったまま街を歩いていたダヴィッドは、不幸にも交通事故に遭い、昏睡状態に陥ります。

病院に駆けつけたローラの両親（ダヴィッドの舅・姑）は、ダヴィッドの重体と同じくらい、彼が女性の格好をしていたという事実に強い衝撃を受けます。この出来事を通じて、夫のジルは、クレールがダヴィッドの秘密を知り、唯一の理解者として彼を支えていたことを悟ります。ダヴィッドの意識はなかなか戻りませんでしたが、ある日クレールは思い立ち、ローラの服をダヴィッドに着せ、化粧を施します。そして、ナイトクラブでダヴィッドが涙した「私は女」という歌を歌いかけ、「ヴィルジニア」と呼びかけます。その呼びかけが届いたのか、ダヴィッドは意識を取り戻します。意識を回復したダヴィッドを自宅へ連れて帰ったクレールは、夫のジルに「ヴィルジニア」として彼を紹介します。

物語は、それから7年後のリュシーの小学校の前に立つヴィルジニアとクレールの姿で締めくくられます。ヴィルジニアは社会の一員として受け入れられ、自己の居場所を見つけていました。そして、クレールはそのお腹に新たな命を宿していました（その子が誰との間にできた子供なのかは、映画の中で明確には語られません）。

キャスト

ダヴィッド / ヴィルジニア: ロマン・デュリス
クレール: アナイス・ドゥムースティエ
ジル: ラファエル・ペルソナ
ローラ: イジルド・ル・ベスコ

この映画は、個人の内面的な葛藤と、それを支える他者との関係性が、喪失という出来事を乗り越える上でいかに重要であるかを描き出しています。また、社会的な規範や期待と、自己の真実の姿との間で揺れ動く人間の複雑さ、そして多様な愛や友情の形を示唆する作品と言えるでしょう。

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