心裡留保

心裡留保とは

心裡留保（しんりりゅうほ）とは、自らの意思を表明する際に、実際の意図とは異なることを認識しつつ行う意思表示です。日本の民法第93条では、「表意者がその真意でないことを知ってした」という形で定義されており、これに基づく意思表示の扱いは特有のものがあります。特に、冗談や戯言がこの範疇に含まれるため、心裡留保は仮想的な意思表示の重要な一種とされています。

心裡留保の構成

心裡留保において、「裡」という字は「裏」との意味を持つことから、表面的な意思と実際の意図の間に存在するギャップを表すものとも言えます。日本の民法では、虚偽表示などと並び、意思の不存在（意思の欠如）として扱われています。また、心裡留保に関連する第三者の権利保護についての規定がないことは、法律上の議論の対象となってきました。

心裡留保の効力

原則

基本的には、意思表示が表意者の真意とは異なることを知っていても、その効力は妨げられません。これは、第三者が表意者が示した意思に従って行動した場合、その信頼を保護するためです。これは、日本の民法がにおける「表示主義」とも呼ばれる立場を反映しています。

例外

ただし、意思表示の相手方が表意者の真意を知っていたり、知ることができた場合、その意思表示は無効とされる場合があります。この際、真意を知っている必要はなく、単に知ることができた場合でも同様です。重要なのは、真意を知ることができるかどうかは一般的な注意義務に基づいて評価されます。

また、会社法では、設立時の株式引受けに関して民法の一般原則を変更しており、株式の引受けに関する意思表示には93条の但書の適用がないと定められています。

第三者との関係

心裡留保には、例えばAB間の譲渡が無効とされる場合に、善意の第三者Cが保護されることが重要なポイントです。Ａが他人に所有物を譲渡したいと思わず、その譲渡が無効ならば、善意の第三者が不利益を受ける事態も考えられます。このようなケースにおいて、善意の第三者は保護されることが通説・判例によって確認されています。

近年の民法改正（2017年）によって、93条に新たな規定が追加され、善意の第三者を明文化して保護しています。

適用範囲

心裡留保は、相手方のいる単独行為だけでなく、相手方のない単独行為にも適用されますが、後者には但書が適用されないため常に無効とのことはありません。さらに、婚姻や養子縁組といった身分行為に関しては92条の適用がなく、常に無効とされます。こうした観点から、心裡留保はさまざまな法律行為に関連する重要な理念であることがわかります。

代理権の濫用と心裡留保

心裡留保の本来的効力は前述の通りですが、判例によって代理権の濫用に関連する場合に類推適用されていることがあり、これは非常に重要な役割を果たしています。代理権が行使された場合でも、代理人が自己の利益を追求するために本来の意図を隠して行動することがあります。この場合、相手方がその事情を知っているか、または知ることができた場合には、意思表示が無効とされます。こうした変化を反映して、2017年の民法改正後には、代理権の濫用に関する問題がより直接的に扱われるようになりました。これにより、無権代理という適用の枠組みが整備されているのです。

まとめ

心裡留保は、表意者とその意図との間のギャップを法律上どのように処理するかという非常に興味深いテーマです。日本における表意者保護の理念は、表意者の真意を尊重しつつも、第三者の権利を保護するためにバランスを取ることに焦点が当てられています。特に近年の法改正により、これらの概念はより明確に、正式な法律として位置づけられています。

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