怪人カリガリ博士

『怪人カリガリ博士』(1962)は、サイレント映画の名作『カリガリ博士』(1920)のタイトルを冠するものの、内容は全く異なるアメリカ合衆国のホラー映画です。ロジャー・ケイ監督、グリニス・ジョンズ、ダン・オハーリー、ディック・ダヴァロスらが出演し、20世紀フォックスが配給しました。

特筆すべきは、小説『サイコ』の作者ロバート・ブロックが脚本に参加している点です。撮影監督のジョン・L・ラッセルは、ヒッチコック監督の『サイコ』(1960)にも参加しており、この映画には、その血脈を感じさせるサスペンスと心理描写が随所に散りばめられています。なお、監督のケイは、ブロックからクレジットを奪おうとしたものの失敗したという逸話も残っており、ブロックの自伝にその顛末が記されているそうです。

物語は、自動車旅行中のジェーン・リンドストロム（グリニス・ジョンズ）が、タイヤのパンクにより、ドイツ語訛りのカリガリ（ダン・オハーリー）の屋敷に助けを求めることから始まります。当初は親切なカリガリですが、次第にジェーンは屋敷から出られないことに気づき、不穏な空気を察知します。カリガリは、ジェーンに個人的な質問を繰り返したり、奇妙な絵を見せたりと、奇妙な行動を繰り返します。

屋敷には、やや年配のポール、ジェーンが惹かれるようになる若いマーク（ディック・ダヴァロス）、快活な年配女性ルースなど、他に宿泊客がいます。ジェーンは、彼らの中に協力者を見つけようとするものの、なかなかうまくいきません。やがて、ルースが何らかの拷問を受けているのを目撃したジェーンは、ポールに協力を求め、カリガリに立ち向かうことを決意します。

ジェーンは、カリガリを誘惑しようと試みますが失敗し、カリガリは自分がポールであることを明かします。ジェーンは恐怖に駆られ、屋敷内を逃げ惑います。

そして衝撃の結末。実はジェーンは精神病院の患者であり、これまで観客が見てきた出来事は、彼女の歪んだ認識による幻覚だったのです。個人的な質問は精神分析、奇妙な絵はロールシャッハ・テスト、ルースへの拷問はショック療法だったことが明かされます。カリガリの紋章も、病院のシンボルであるケーリュケイオン（カドゥケウス）を歪曲したものでした。治療を受けたジェーンは、息子であることが明らかになったマークに連れ出され、観客の前に姿を現します。皺の刻まれた老いたジェーンの姿は、これまでの美しく完璧なイメージとはかけ離れており、観る者に深い衝撃を与えます。

なお、この映画で交わされる会話の一部は、ナイン・インチ・ネイルズの楽曲サンプリングにも使用されているという興味深いエピソードも存在します。映画音楽の世界にも、その影響が及んでいるのです。

キャストは、ジェーン役のグリニス・ジョンズの他、ダン・オハーリー、ディック・ダヴァロスなど、実力派俳優が名を連ねています。それぞれの演技が、映画全体に張り詰めた緊迫感を生み出しています。彼らの表現力豊かな演技は、ジェーンの不安や恐怖、そして最終的な真実の重みを、より深く観客に伝えています。この映画は、サスペンスと心理描写の巧みさで観客を魅了し、ラストシーンでの衝撃的な真実の明かされ方は、観る者の心に深い余韻を残すでしょう。

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