恋文 (フェルメール)

『恋文』

『恋文』（こいぶみ、オランダ語: De liefdesbrief、英語: The Love Letter）は、17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメールによって1669年から1670年頃に制作された油彩作品です。この絵画はアムステルダム国立美術館に所蔵され、1696年の競売で目録に記載され、その後1893年から同美術館で展示されています。

作品の構成

本作品はカーテンを開けた構図で、鑑賞者はまるで私生活のシーンを覗き見しているような印象を受けます。この独特な視点は、フェルメールと同時期の画家ピーテル・デ・ホーホのスタイルを思わせますが、結果的に本作は彼の作品の中でも特に緊迫感を漂わせています。

描かれているのは豪華な装飾が施された部屋で、2人の女性が描かれています。腰かけている女性は、高級な衣服と宝石で飾られ、この家の女主人であることがわかります。彼女はオコジョの毛皮で装飾された黄色い上着を着ており、このデザインはフェルメールの他の作品でも見られます。手紙を持つ彼女の表情は不安であり、リュートに似た楽器であるシターンの演奏を一時中断しています。彼女の視線は左側に立つ召使に向いており、召使は手紙を渡したばかりのようで、安心させるために微笑んでいます。

手紙の意義

この手紙には恋愛の意味合いがあり、女主人の夫や求愛者から送られたものであると考えられます。この作品は、手紙が恋愛を象徴するという絵画の伝統に従っています。リュートや音楽は、恋愛や結婚の調和を象徴するものとされており、手紙の内容はそれを裏付けています。また、背景に描かれた海の風景は恋人の不在を暗示しており、当時の美術においては恋愛は海や船に例えられることが一般的でした。

本作は、ハブリエル・メツーの『手紙を読む女』とも関連しています。この作品も女性が手紙を読む姿を描いており、共通点としては黄色い上着や刺繍の枕、洗濯籠、脱ぎ捨てられた室内履きなどが挙げられます。メツーは1667年に亡くなっていますが、フェルメールの作品がこの後に制作されたことから、彼らが互いに影響を与え合っていた可能性が示唆されています。

技法と影響

フェルメールの『恋文』の特長は、その厳格な幾何学的構造です。ドア枠の直線とマントルピースの縦のラインが巧妙に繰り返されており、建築物や床の透視図法には高い精度が見られます。前景の物体は暗い影の中にありますが、それにより視線は作品の中心である奥の部屋に引き込まれ、フェルメールの光を再現する技術が際立ちます。

彼の透視図法は当時としては特に優れており、デン・ハーグの美術愛好家ピーテル・テーディング・ファン・ベルクハウトは1669年の訪問時に彼の技法に感銘を受け、「優れた画家」と称賛しました。

作品の歴史

残念ながら、『恋文』は1971年にブリュッセルでの展覧会中に盗難に遭い、その後損傷を受けました。そのため、修復が施されていますが、作品の魅力は今もなお色あせることはありません。現代においても、フェルメールの特徴的な技法や緊張感に満ちた作品が多くの人々に愛され続けています。

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