恍惚の人

恍惚の人

『恍惚の人』は、有吉佐和子による日本の長編小説で、その英語名は「The Twilight Years」です。1972年に新潮社から発表され、当時の日本文学における重要な作品として位置づけられています。また、1973年には森繁久彌主演で映画化され、その後も1990年、1999年、2006年にそれぞれテレビドラマとして再現されました。

作品の背景と影響

本作は、認知症や老年学といったテーマを扱った日本の文学作品の中でも最も早い段階のものです。1972年には194万部という売り上げを記録し、その影響力から、痴呆高齢者の介護問題への関心が高まりました。作品の名は、『日本外史』から得たもので、老いて病み恍惚として人を知らず、という文を由来としています。

井上ひさしは、有吉がこの作品のために約10年間の取材を行ったと述べており、その成果は作品の深い描写に表れています。また、1980年代にはこの作品の収益で新潮社の別館ビルが建設され、「恍惚ビル」と名付けられるという結果も生み出しました。

あらすじ

物語は、立花昭子という女性を中心に展開されます。昭子は弁護士事務所で働きながら、家事や舅の介護に忙殺されています。立花茂造、彼女の舅は、妻の急死後、認知症の進行に悩まされ、一時は昭子を頼りにします。一方で、その夫、立花信利は商社に勤務し多忙な生活を送っており、父の病状を見て自分の未来を重ねてしまい、介護には無関心です。昭子の妹夫婦、立花敏も一人息子として、家業を手伝いながら親の介護に協力的です。

近所のおばあさん、門谷家の女性は、茂造を老人クラブに連れて行き、彼の世話を焼くものの、やがてその愛情は冷め、彼女自身も介護への愚痴をこぼすことになります。また、大学生のエミが現れ、彼女は恋人の山岸と一緒に茂造の面倒を見ることで、昭子を助ける役割を果たします。

文化的反響と評価

『恍惚の人』は、その発表当初から多くの読者に親しまれ、特に1972年に発表された時には、日本の年間ベストセラーに選ばれました。井上ひさしも、有吉が描く密度の濃い人間関係について評価し、この作品でもそれが見受けられるとしています。映像作品としても、映画やテレビドラマが制作され、特に映画版では森繁久彌の迫真の演技が話題となりました。

映画とドラマ

映画（1973年）

1973年に公開された映画版は、森繁久彌が主演を務め、モノクロ作品として制作されました。この作品は、配給収入が1億円に達し、老父を演じた森繁の演技は高く評価されました。

ドラマ

1990年には日本テレビでオリジナルドラマが放送され、出色のキャストが揃いました。1999年には、タイトルが少し変更されて再放送され、2006年には再度テレビ作品として放送されました。これらすべての映像化は、このテーマの重要性を再確認する機会となり、多くの視聴者に深い感動を与えました。

舞台版

さらに、舞台でも作品は再演され、1980年代と2006年にかけて数度の上演が行われ、演劇界でも強い影響力を持っています。これにより、『恍惚の人』は日本文学や映像文化における重要な作品として素晴らしい歴史を持つこととなったのです。

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