恐怖の部屋

恐怖の部屋：マダム・タッソー館のダークな歴史

ロンドンのマダム・タッソー館には、かつて「恐怖の部屋（Chamber of Horrors）」と呼ばれる特別展示室がありました。1802年の開館以来、長きに渡り来場者たちを魅了し、恐怖に慄かせたこの部屋は、悪名高き殺人者や歴史上の人物たちの蝋人形を展示することで知られていました。2016年4月の閉鎖まで、マダム・タッソー館の象徴的な存在として、多くの伝説と歴史を刻み付けてきました。

前身と初期：大泥棒の洞窟から恐怖の部屋へ

「恐怖の部屋」の起源は、マダム・タッソーの師であるフィリップ・クルティウス医師が1782年にパリで開催した蝋人形展にまで遡ります。その付属施設として設けられた「大泥棒の洞窟（Caverne des Grands Voleurs）」では、フランスで処刑された犯罪者たちの蝋人形が展示されていました。クルティウスの死後、これらの貴重なコレクションはマダム・タッソーに相続され、1802年にロンドンへ移されました。

ロンドンでの蝋人形展開催において、このコレクションの一部が「別室」として特別展示されました。イギリス国内を巡業する際も、この「別室」は常に設けられ、通常の展示とは区別されていました。ルイ16世やマリー・アントワネットの頭部、フランス革命に関わった著名な人物の蝋人形、ギロチンやバスティーユ監獄の模型、そしてエジプトのミイラなど、多様な展示物が人々の関心を集めました。

1835年、マダム・タッソーがロンドンに常設展示場を設立すると、「別室」はついに「恐怖の部屋」と名を変え、その名を広く知らしめることになります。展示品には、フランス革命の犠牲者たちの他に、イギリスで悪名を轟かせた犯罪者たちの蝋人形も加わりました。1845年にパンチ誌でこの名称が使用されたことが、定着のきっかけとなったと言われています。当時、この部屋への入場には追加料金が必要だったそうです。

特別展示室：恐怖と歴史の融合

「恐怖の部屋」は建物の地下に位置し、フランス革命の犠牲者のデスマスクから作られた蝋製の頭部や、近年の殺人鬼、悪名高い犯罪者たちの蝋人形などが展示されていました。1996年には大規模な改装が行われ、500年間における罪と罰の歴史を再現した展示となりました。ニューゲート監獄の品々や拷問器具のレプリカ、そして役者によるうめき声や叫び声といった音声演出も加えられ、より臨場感あふれる空間が創出されました。

さらに、不気味なメイクと衣装を身にまとった役者による演出も導入されました。暗い影や牢屋の奥から客を呼び寄せる演出や、独房が半開きで何も無いという、脱走犯を暗示させる演出も話題を呼びました。ヴラド・ツェペシュ、チンギス・カン、ガイ・フォークス、アドルフ・ヒトラーなど、歴史上の人物たちも蝋人形として展示されていました。興味深いことに、切り裂きジャックの蝋人形は、マダム・タッソーの方針により、影のみで表現されていました。

閉鎖とその後

「恐怖の部屋」は、小さな子供や妊婦には見学が推奨されないほど、刺激の強い展示内容でした。世界中の様々な処刑方法をカタログ化したような展示も、教育的な観点から注目されていました。しかし、2016年4月11日、長きに渡る歴史に幕を閉じ、「シャーロック・ホームズ・エクスペリエンス」へとリニューアルされました。この閉鎖によって、独特な展示内容や歴史的資料へのアクセスは失われたものの、マダム・タッソー館の歴史の一部として、その存在は人々の記憶に刻み込まれています。

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