恩送り

恩送り：善意の連鎖と現代社会

「恩送り」とは、誰かに受けた親切や好意を、その人ではなく、別の人に返す行為を指します。一見すると、恩返しとは異なるように思えますが、その本質は、善意の連鎖を循環させることにあります。

歴史と概念

「恩送り」という言葉自体は江戸時代の文献にも登場しますが、当初は「恩返し」とほぼ同義と解釈されていました。しかし、作家の井上ひさし氏によって、受けた恩を次々と別の人に伝えていく、善意の連鎖としての意味が明確に示されました。これは、恩を直接返せない場合でも、善意を社会に還元できる効果的な方法と言えるでしょう。

このような「恩送り」の概念は、『菅原伝授手習鑑』といった古典作品にも見られるように、古くから日本社会に存在していました。それと近しい概念として、「情けは人の為ならず」という表現があります。これは、他者への親切が巡り巡って自分に返ってくるという、恩送りと本質的に同じ考え方を示しています。

これらの考え方は、日本だけでなく、世界中の様々な文化圏に共通して見られる普遍的なものです。英語圏では「A kindness is never lost（親切は決して失われない）」という表現が、同様の概念を表しています。

現代社会における恩送りの意義

しかしながら、現代社会、特に先進国においては、利己主義や近視眼的な視点が蔓延し、このような伝統的なモラルや良識が忘れられがちになっているという指摘があります。この傾向は、社会問題の発生にも繋がっていると言えるでしょう。

そのような状況の中で、近年注目を集めているのが、「Pay it forward（ペイ・イット・フォーワード）」という概念です。これは、「恩送り」とほぼ同じ意味を持ち、英語圏で再認識されつつある考え方です。

ペイ・イット・フォーワード運動

「Pay it forward」をテーマにした小説『ペイ・フォワード 可能の王国』が出版され、それを基に「ペイ・イット・フォーワード財団」が設立されました。この財団は、学校教育を通して「Pay it forward」の考え方を広める活動を行っています。

日本でも近年、「恩送り」をテーマにした書籍が多数出版されており、改めてこの考え方の重要性が認識されつつあります。

まとめ

「恩送り」は、受けた恩を直接返すのではなく、他者への善意の連鎖を生み出す行為です。古くから日本社会に根付く考え方であり、「情けは人の為ならず」といった表現とも通じるものがあります。現代社会では希薄になりつつありますが、「Pay it forward」という概念で再び注目を集め、社会貢献活動にも活かされています。この考え方を未来へ繋いでいくことが、より良い社会を築く上で重要と言えるでしょう。

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