悦楽の園 (小説)

木地雅映子『悦楽の園』

『悦楽の園』（えつらくのその）は、作家木地雅映子によって書かれた小説です。2007年10月5日にジャイブから単行本が刊行され、その後2010年5月7日にはポプラ文庫ピュアフルから文庫版が出版されました。単行本の装丁は片岡忠彦が、装画はヒエロニムス・ボスの祭壇画『悦楽の園』が用いられています。文庫版の装画は五十嵐大介が担当しました。

あらすじ

物語の主人公、相原真琴は、革命家であったとされる父親と、15歳で亡くなった母親ミチルの間に生まれました。彼女は、祖母、合気道の達人である曾祖母、児童福祉司の伯母・慧実、そして経済学を学ぶ伯母・留美子に囲まれて育ちます。中学校に入学した真琴は、成績優秀な優等生として周囲から認められる存在となります。

一方、クラスメイトの南一は、ナンチと呼ばれており、身体が小さく軟弱で、成績も芳しくありません。友達もいない彼は、周囲には理解できない奇妙な絵を描いていました。真琴は、ある日、南の描いた絵を目にし、そこから二人の関係は深まっていきます。物語は、二人の交流を通して、思春期の少年少女の葛藤や成長を繊細に描き出します。

主な登場人物

相原真琴：物語の主人公である女子中学生。優等生として周囲からの信頼も厚い。
南一：真琴の同級生である男子中学生。ナンチと呼ばれており、独特な絵を描く。
* 染谷：同じ中学校に通う不良の男子中学生。

書評

歌人の穂村弘は、本作を「傑作」と評し、『氷の海のガレオン』で描かれた主人公の苦しみをより現実的な問題として捉え直している点を評価しました。穂村は、この作品が「前人未踏の『次のステップ』を踏み出せた」と述べています。

また、本の雑誌社によるサイト「WEB本の雑誌」では、本作を「『普通の子』を大人だけでなく子どもも求める学校という閉塞した環境に対する闘いの小説」と捉え、「素晴らしいと思ったし、衝撃を受けた1冊だった」と評しています。書評家の藤田香織は、本作を「実績なんてないに等しい作家なのに、これだけの空白期間があってまた単行本が出るというだけで、まず凄いわけです」と評価し、「『好きだ！』という以上に言葉が見つからない」とその感動を表現しました。

これらの書評からもわかるように、『悦楽の園』は、その文学性と物語の力で、多くの読者を魅了する作品と言えるでしょう。閉塞的な環境で生きる人々の苦悩や、そこから生まれる希望を、鮮やかに描き出しています。この作品は、思春期の少年少女の繊細な感情や、社会に対する反抗心を深く掘り下げており、読者に強い印象を与えるでしょう。単なる青春小説ではなく、人間の内面や社会構造を問いかける、読み応えのある作品として、広くおすすめできます。

もう一度検索