悪童日記

『悪童日記』解説

アゴタ・クリストフの小説『悪童日記』（1986年）は、戦時下を舞台に、過酷な運命に翻弄される双子の兄弟の物語です。作者自身の亡命経験が色濃く反映された本作は、発表当初から大きな反響を呼びました。

あらすじ

物語は、戦火を逃れ「大きな町」から「小さな町」へ疎開してきた双子の兄弟の視点から語られます。母親は彼らを、自身の実母である「魔女」と呼ばれる老婆に預けます。祖母は厳格で、労働をしなければ食事を与えません。双子は生きるために農作業を覚え、聖書を読み書きの教材として自らを鍛え上げます。

盗みやゆすりも厭わず、駐在する将校や隣家の少女との交流を通して、双子は困難な状況を生き抜いていきます。しかし、終戦間際に母親が亡命を試みるも失敗、爆撃によって命を落とします。兄弟は祖母のもとで生活を続け、やがて父親が現れます。亡命を希望する父親を助けようと国境越えを手引きしますが、彼は地雷で命を落とします。一人は国境を越え、もう一人は祖母の家に戻り、以前と変わらぬ生活を再開します。

作品の特徴

日記形式: 物語は双子の兄弟が共同で書き綴った日記という形式で進行します。「ぼくら」という一人称で語られ、最後まで個々の名前は明かされません。
即物的な文体: 無駄な感情表現を排した、客観的で簡潔な文体が特徴です。残酷な描写も淡々と語られ、読者に強烈な印象を与えます。
舞台設定の曖昧さ: 具体的な地名や時代は特定されていませんが、作者の経歴から第二次世界大戦下のブダペストが舞台であると考えられています。

作者について

アゴタ・クリストフはハンガリー出身で、1956年のハンガリー動乱の際にスイスへ亡命しました。フランス語で執筆活動を行い、『悪童日記』は彼女にとって初の小説作品となりました。

映像化

2013年には、ヤーノシュ・サース監督によって映画化されました。

その他の情報

続編として『ふたりの証拠』（1988年）、『第三の嘘』（1991年）があります。
* 糸井重里が手掛けたゲームソフト『MOTHER3』には、本作に登場する双子の名前「リュカ」「クラウス」が引用されています。

『悪童日記』は、戦争の悲惨さ、人間の残酷さ、そして生きるための強さを描いた、衝撃的な作品です。ぜひ一度手に取って、その世界観に触れてみてください。

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