悪霊 (江戸川乱歩)

作品概要

江戸川乱歩が著した『悪霊』は、1933年から1934年にかけて推理小説の専門誌『新青年』に連載されたが、未完の作品として知られています。著者はこの作品に対して大きな期待を寄せられていましたが、執筆過程で意欲を失い、最終的には中断されてしまったのです。

連載と中断

乱歩は『新青年』編集部からの依頼に基づき、約2年ぶりに本格的な推理小説を書くことにしたのですが、創作意欲の低下が影響し、連載の途中で休載することに至りました。彼は読者に向けて詫びの文を書き、自身の無力さを告白し、『悪霊』の執筆を一時中断すると表明しました。その後、残念ながらこの作品は乱歩の生涯の最後まで完成することはありませんでした。

乱歩は義理堅く、特に彼のデビュー作『二銭銅貨』を連載していた『新青年』からの執筆依頼に応じる形でこの作品に取り組みました。しかし、2年の空白が執筆に影響を及ぼし、意外性のある展開が浮かばず、連載は早々に見切り発車となりました。

あらすじ

物語は、私（主人公）である小説家が、中年の失業者から強引に2冊の犯罪記録を手に入れるところから始まります。不眠の夜、暇つぶしにその記録を読み始めた私は、その内容に夢中になり、発表を決意します。これらの記録は、祖父江進一という人物が岩井坦に宛てた手紙の束で、手紙の内容は驚くべきものです。

祖父江は、降霊術の仲間である姉崎曽恵子未亡人を訪ねた際、彼女が土蔵で全裸の状態で殺害されているのを発見します。その際、姉崎は一人でおり、鍵は死体の下にあったことから不可解な点が多く残ります。さらに、姉崎の死体には細かい傷が多数あり、血が無秩序に流れ、あたかも何かの儀式のような状況だったのです。寄生していた浮浪者の証言からは、犯行当時に土蔵に入った中年の紳士と、時代遅れの服装をした女性が目撃されています。この女性は近隣でも知られていた存在です。

その後、私は心霊学会の中心人物である黒川博士のもとを訪れ、彼が面倒を見ている霊媒師が姉崎未亡人の死を予言していたことを知ります。心霊学会のメンバーが集まる中、霊媒師が「犯人はこの中にいる」と不気味な言葉を口にします。そして、彼女は意識を失います。このような中で、一体どのように事件が進展し、真の犯人が明らかになるのかが物語の核心となります。

登場人物

• - 祖父江進一: A新聞学芸部記者で、手紙の送り主。
• - 岩井坦: 手紙の受取人で、主人公が犯人の可能性を感じる中年の失業者。
• - 姉崎曽恵子: 美しい実業家の未亡人で、黒川博士の知人。
• - 黒川博士: 心理学者で、心霊学会の中心的人物。
• - 龍ちゃん: 黒川博士が面倒を見る盲目の少女で、多重人格者。
• - 園田: 大学を卒業した文学士。
• - 熊浦: 民間の妖怪研究者で、心霊学会の創立者。
• - 黒川鞠子: 黒川博士の娘で魅力的な美少女。

補筆の試み

2023年には作家の今井K氏によって『悪霊』の完結版が刊行され、さらに2024年には芦辺拓氏が補筆を行い、作品に新たな章が加えられました。

このように『悪霊』は、今なお多くの読者に愛され続けている作品です。

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