悪魔の偽王国

『悪魔の偽王国』（Pseudomonarchia Daemonum）は、ヨハン・ヴァイヤーの主著『悪魔による眩惑について』(De praestigiis daemonum)の1577年版に収録された補遺であり、「デーモン（悪霊）の偽君主国」を意味します。本書は、地獄の悪霊たちを神聖ローマ帝国の封建制度を模した位階秩序を持つものとして描き出している点が特徴です。

本書は、悪魔の一覧と、彼らを召喚するのに適した時間や儀式を記している点で、『ソロモンの小鍵』の第一章である『ゴエティア』と共通しています。しかし、『悪魔の偽王国』が16世紀に書かれたのに対し、『ソロモンの小鍵』の現存する写本は17世紀以降のものであるため、どちらが先行する文献であるかについては議論があります。

フレッド・ゲティングズは、初期の『ソロモンの小鍵』は15世紀初頭に遡るとし、『悪魔の偽王国』が『レメゲトン』の初期の版を基に作成されたと推測しています。一方、ジョゼフ・ピーターソンは、レジナルド・スコットが英訳した『悪魔の偽王国』にプルフラスの記述がないことから、『悪魔の偽王国』にプルフラスが欠落した版が存在し、それが現行の『ゴエティア』の編成に影響を与えた可能性を示唆しています。

両書に登場する悪魔には共通点が多く、『ゴエティア』に登場する72の悪魔のうち68体が『悪魔の偽王国』にも登場します。ただし、悪魔の順番や特徴には一部相違が見られます。

『ゴエティア』にのみ登場する悪魔としては、ウァサゴ、セエレ、ダンタリオン、アンドロマリウスが挙げられます。逆に、『悪魔の偽王国』にのみ登場する悪魔はプルフラスです。また、『ソロモンの小さな鍵』が悪魔に印章を対応させているのに対し、『悪魔の偽王国』には印章に関する記述はありません。

著者のヴァイヤーは、本書を執筆するにあたり、Liber officiorum spirituum, seu Liber dictus Empto. Salomonis, de principibus et regibus daemoniorum という文献を参照したとされています。

参考文献
Johann Weyer, Pseudomonarchia Daemonum, Twilit Grotto: Archives of Western Esoterica
クルト・バッシュビッツ 『魔女と魔女裁判』
* 永井豪 原著、南條竹則とデーモン一族 編 『悪魔聖誕　デビルマンの悪魔学』

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