悲しい酒

美空ひばりの「悲しい酒」

「悲しい酒」は、1966年6月10日に発売された美空ひばりのシングル曲であり、彼女の代表作の一つとして知られています。この曲は、石本美由起が歌詞を手掛け、古賀政男が曲を作曲したもので、元は別の歌手によるバージョンが存在し、その後美空ひばりによって新たに生まれ変わりました。

楽曲の誕生の背景

「悲しい酒」の初演は、1960年に北見沢惇によって行われました。北見沢は当時、松竹の俳優としての活動を経て音楽界に転身しましたが、商業的には成功を収めることはできず、荒んだ生活を送っていました。彼がこの曲を歌った時は、再起を目指す意味合いがありましたが、期待したヒットは生まれませんでした。その後、彼は契約を打ち切られ不遇な日々を過ごしました。

ひばりへの提供とレコーディング

1966年、コロムビアのスタッフが美空ひばりのために新たな楽曲を模索する中、北見沢バージョンの編曲を手掛けた佐伯亮が復活の機会を見出します。彼は、原曲の存在を隠してひばりへの提供を提案し、古賀政男もこれを了承しました。このようにして「悲しい酒」は、美空ひばりの声で新たな命を吹き込まれたのです。

ひばりは歌う際にやる気が出ない様子であったものの、歌唱後にはその曲が持つ感情の深さに感動したのか、涙ながらに表現することとなりました。彼女は「小さいころのつらかった出来事を思い出している」と語っています。

シングルの成功とその位置づけ

「悲しい酒」は145万枚を売り上げる大ヒットを記録し、彼女がリリースしたシングルの中でも第3位の売上を誇る楽曲となりました。さらに、1966年の『第17回NHK紅白歌合戦』では紅組のトリとして披露され、多くの視聴者の心に残りました。この曲は後に数多くの歌手によってカバーされ、世代を超えて愛され続けています。

北見沢のその後

一方で、オリジナルの北見沢は「悲しい酒」が大ヒットする前に病気に倒れ、1966年8月9日に30歳という若さで亡くなりました。彼はその後もクラブやキャバレーで歌手として活動していたものの、状況は日増しに厳しくなり、決して恵まれた環境ではありませんでした。彼がこの曲の譜面を手元に持ちながらも歌わなかったという事実は、彼の心情を物語っています。

影響と評価

「悲しい酒」は、後に数多くのアーティストに影響を与えた楽曲として位置づけられ、今なお日本の音楽界においてその存在感を示し続けています。美容、歌唱力、感情表現、メロディーなど、さまざまな要素が組み合わさったこの曲は、聴く人々の心に深く響く作品となっています。なお、近年では、専門のレコード会社によって北見沢の版も復刻されるなど、再評価が進んでいます。

美空ひばりの「悲しい酒」は、歌の持つ力、人生の悲哀、そして弾けるような美しさを持った珠玉の一曲として、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。

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