愛してるって言っておくね

『愛してるって言っておくね』（原題：If Anything Happens I Love You）は、ウィル・マコーマックとマイケル・ゴヴィアが共同で監督・脚本を務めた、2020年製作のアメリカ合衆国の短編アニメーション映画です。Netflixで配信され、第93回アカデミー賞短編アニメーション映画賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

この作品は、高校での銃乱射事件で娘を亡くした夫婦の物語です。事件後、深い悲しみに暮れる両親は、互いに言葉を交わさず、心の距離を置いて生活しています。しかし、彼らの心の内には、亡き娘への深い愛と、癒えない喪失感が渦巻いています。

物語は、静謐なタッチで描かれたアニメーションによって展開されます。モノクロームを基調とした画面の中に、時に色彩が差し込まれる演出が効果的です。特に印象的なのは、両親の感情を象徴する影の存在です。これらの影は、言葉にならない悲しみや、かすかな希望といった複雑な感情を視覚的に表現し、物語に深みを与えています。

ある日、母親が娘のシャツを洗う際に、娘への記憶が蘇り、悲しみがあふれ出てきます。その後、娘のサッカーボールが偶然レコードプレーヤーに当たり、「1950」という曲が流れ始めます。この音楽と共に、娘の生きた証が、両親の記憶として鮮やかに蘇ります。

回想シーンでは、娘の成長が幸せな思い出と共に丁寧に描かれています。サッカーに打ち込む姿、誕生日を祝う様子、初めてのキスなど、ごく普通の少女の日常が映し出され、観客の胸を打つのです。しかし、その幸せな記憶の連鎖は、娘が銃乱射事件に巻き込まれ命を落とす場面で断ち切られます。

悲劇の直後、絶望の淵に立つ両親ですが、娘の影が両親の影を繋ぎ止めます。その瞬間、現実世界の両親は抱擁し合い、娘の影は光となって、悲しみに暮れる2人の間に差し込みます。このラストシーンは、喪失の痛みと、それでも消えることのない愛の強さを象徴的に表現していると言えるでしょう。

『愛してるって言っておくね』は、学校銃乱射事件という重いテーマを扱っていますが、派手な演出や暴力描写はありません。代わりに、繊細なアニメーション、静かな音楽、そして象徴的な影の表現によって、複雑な感情を静かに、しかし力強く伝えています。

本作の製作には、ウィル・マコーマックとマイケル・ゴヴィアをはじめ、多くの女性スタッフが携わっています。アニメーション監督ヤングラン・ノーは、アカデミー賞受賞作『岸辺のふたり』からインスピレーションを得て、白黒を基調とした独特の映像表現を作り上げました。また、音楽も物語の感情を効果的に高めています。

『愛してるって言っておくね』は、単なる悲劇の物語ではありません。それは、深い悲しみを乗り越え、それでもなお愛を信じ続ける、人間の強さと優しさを描いた作品です。静けさの中に潜む深い感情、そして忘れられない感動を与えてくれる、傑作短編アニメーションと言えます。

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