愛しのタチアナ

愛しのタチアナ：フィンランドの巨匠が描く、不器用な男たちのロードムービー

アキ・カウリスマキ監督による1994年のフィンランド映画『愛しのタチアナ』（原題：Pidä huivista kiinni, Tatjana）は、1960年代のフィンランドを舞台にした、モノクロームのコメディ作品です。中年男性2人の、予想外の展開と、どこか切ない余韻を残すロードムービーとなっています。

物語の中心人物は、実家で仕立て屋の母親を手伝う内気な中年男性、ヴァルトです。コーヒーが切れたことに腹を立て、母親を納戸に閉じ込めた挙句、金を盗んで家出するという、衝撃的な幕開けから物語は始まります。

彼は、不良ロッカー気取りの自動車修理工、レイノと合流。試運転を名目に、2人はアテのないドライブに出かけます。旅の途中で出会ったのは、ロシア人女性クラウディアとエストニア人女性タチアナという旅行者2人組。バスが故障した彼女たちを助けることになり、港まで送ることになります。

ヴァルトとレイノは女性にまるで免疫がなく、言葉も交わさず、視線を合わせることもできません。クラウディアは彼らの奥手ぶりにあきれる一方、タチアナは彼らの誠実さに惹かれていきます。

港に到着し、別れを告げた後も、2人の女性がフェリーでくつろいでいるラウンジに、2人の男性は黙って座ります。そして、エストニアまで同行することに。タリン駅でクラウディアを見送った後、ヴァルトは帰ろうとしますが、レイノはタチアナと恋に落ち、エストニアに残ることを決意します。

一人残されたヴァルトは、もし自分が旅をうまくリードしていたら…と妄想しながら、一人故郷へ帰ります。納戸から母親を解放し、コーヒーを入れてもらうという、なんとも皮肉な結末を迎えます。

この映画の魅力は、何と言ってもカウリスマキ監督独特のユーモラスな演出と、モノクローム映像によるノスタルジックな雰囲気です。1995年のユッシ賞撮影賞を受賞した、美しい映像にも注目です。

シャイで不器用ながらも、どこか人間味あふれるヴァルトとレイノのキャラクター、そして予想外の展開、そして、旅を通して変化していく彼らの心の機微が繊細に描かれています。

俳優陣の演技も素晴らしく、特にヴァルト役のマト・ヴァルトネンと、タチアナ役の kati outiainen の自然な演技は、物語に深みを与えています。

『愛しのタチアナ』は、単なるロードムービーではなく、人間関係や人生の機微をユーモラスかつ繊細に描いた、奥深い作品です。フィンランドの文化や風景も垣間見れる、忘れがたい映画体験を与えてくれます。一見の価値ありです。

主な登場人物

ヴァルト（マト・ヴァルトネン）：内気な中年男性。仕立て屋の母親と暮らしている。
レイノ（マッティ・ペロンパー）：不良ロッカー気取りの自動車修理工。ヴァルトの友人。
タチアナ（カティ・オウティネン）：エストニア人女性。旅行者。
クラウディア（キルシ・テュッキュライネン）：ロシア人女性。旅行者。

監督

アキ・カウリスマキ

受賞歴

* 1995年 ユッシ賞 撮影賞

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