愛犬 (松本清張)

愛犬

松本清張による短編小説『愛犬』は、1978年に『小説新潮』に掲載され、1979年には短編集『隠花の飾り』に収録された作品です。この物語は、犬と飼い主との間の特別な絆を描き、サスペンス要素が絡む興味深い内容となっています。

あらすじ

物語は、京橋近くにある会席料理店で会計を担当しているおみよさんが主役です。おみよさんは幼少時から犬が好きで、現在は柴犬のサブと呼ぶ彼の相棒を飼っています。サブは非常に感覚が鋭く、外からの物音や足音に敏感に反応し、しばしば吠え立てます。ある夜、おみよさんの家の前を通り過ぎる男の靴音が、なんと5か月もの長きにわたり続きます。最初はその度に吠えていたサブですが、次第にその反応は薄れ、静かになっていきました。

ところがその後、近くで主婦が殺されるという衝撃的な事件が発生します。それ以降、不思議なことに夜の靴音は完全に聞こえなくなりました。この事件の影響で、おみよさんは怖れを抱えながらも警察に通報することを躊躇います。しかし、事件の背後には意外な接点が隠れており、彼女は思わぬ形で犯人と関わっていくことになります。

エピソード

清張はこの作品を「料理屋で聞いた話」として腑分けのメモを残しています。話は、東京に住む犬を飼う女性が、犬を姉に預けて南九州に旅行するところから始まります。姉からの電話で、犬が食事を摂らず、衰弱してしまう恐れがあることを知らされます。彼女は、恋人との再会を果たすために出かけますが、結局は犬のために東京へと早々に戻ることになります。犬は彼女が出かけるたびに無表情な顔を見せたり、デートの時には嫉妬心をむき出しにするなど、つねに彼女の行動に反応を示します。

特に、彼女が他の犬と接触したり、異性の香りを身にまとうと、珍しくも激しい反応を示す様子が描写されており、犬と飼い主の深い繋がりを物語っています。彼女は友人の死には驚かずとも、他の犬が亡くなった話を聞くと感情が溢れ出てしまう特殊な感性を持っています。

テレビドラマ化

1986年にはこの短編小説を基にしたテレビドラマ『松本清張サスペンス 隠花の飾り』が放送されました。関西テレビ制作で、フジテレビ系列で放送されたこの作品には、小川眞由美をはじめとする多くの俳優がキャスティングされ、高評価を得ました。視聴率は15.5％を記録するなど、人気を博しました。脚本は大薮郁子、監督は松尾昭典が担当し、三枝成彰が音楽を手掛けています。ドラマ化によって小説の持つ緊張感と情緒が映像化され、多くのファンを魅了しました。

まとめ

『愛犬』は、犬との関係を深く掘り下げた作品であり、サスペンスと人間ドラマが融合した印象的な物語です。松本清張の筆によるこの作品は、多くの読者や視聴者に影響を与えています。

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