戦列 (クルアーン)

戦列（アッ・サッフ）: コーラン第61章の解説

『戦列』（アッ・サッフ）は、イスラム教の聖典コーランにおける第61番目の章です。この章では、神の道のために結束し、「戦い」に臨むことの重要性と、その先にある「勝利」について深く掘り下げられています。物語の中心には、預言者ムーサー（モーセ）、マルヤムの子イーサー（イエス）、そして預言者ムハンマドが登場し、それぞれの教えを通して信仰のあり方が示唆されています。

主な登場人物とその役割

ムーサー（モーセ）: 旧約聖書に登場する重要な預言者であり、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教においても重要な人物として認識されています。本章では、彼が人々に苦しめられたエピソードが語られ、信仰の試練が描かれています。

マルヤムの子イーサー（イエス）: キリスト教における救世主であり、イスラム教においても重要な預言者の一人です。本章では、彼が後に出現する預言者アフマド（ムハンマド）の到来を預言する場面が描かれています。彼は神のために全てを捧げた人物として描かれています。

* アフマド（ムハンマド）: イスラム教における最後の預言者であり、本章ではイーサーの預言に従って出現した人物として言及されます。彼は貧者への喜捨を説き、自らも実践することで、信徒の模範となりました。

章の主な内容

神の道における「戦い」

本章では、神は自身の言葉を実行する人々、特に神の道のために戦列を敷いて戦う人々を好むと説かれています。この「戦い」は、物理的な戦闘だけでなく、信仰を貫くためのあらゆる努力を含むと解釈できます。神への献身と自己犠牲の精神が強調されています。

信仰の試練と背信

神を信じない人々の心が捻じ曲げられ、預言者ムーサーが苦しめられるエピソードを通じて、信仰の試練が描かれています。ムーサーは、自身が神の使徒であることを知りながら苦しめる人々に対し、なぜそのような行為をするのかと問いかけます。この場面は、信仰を持つことの難しさと、それに対する人々の反応を示しています。

イーサーの預言とムハンマドの出現

マルヤムの子イーサーは、自身が神の使徒であり、以前の律法を確証するとともに、後に預言者アフマドが出現することを伝えます。しかし、人によっては、イーサーの奇跡を魔術と見なします。この箇所は、預言者たちのメッセージが必ずしも全ての人に受け入れられるわけではないことを示唆しています。

普遍的な光としてのイスラム

神への絶対的な帰依を拒む人々は不義であるとされ、神は不義の人々を導かないと述べられています。しかし、神は使徒を遣わし、全ての宗教を照らす光を送ります。不信心者や多神教徒がその光を嫌がっても、神の光は世界を照らし続けます。これは、イスラム教が普遍的なメッセージを持つ宗教であることを示しています。

最高の儲け話: アドンの園

神を信じ、全てを神に捧げることが、最高の儲け話であると説かれています。その結果として、信者はアドンの園（エデンの園）に住むことができると約束されます。この「戦い」における「勝利」とは、単に敵を打ち負かすことではなく、アドンの園への居住、つまり永遠の幸福を得ることを意味します。

神への協力者となれ

ムハンマドは、身近な「勝利」に関する福音も伝えます。それは、イーサーが弟子たちに「神のために、私に協力するのは誰か」と尋ねたとき、弟子たちが「私たちが神に協力します」と答えたエピソードです。イーサーと弟子たちは「戦い」に「勝利」しました。この物語は、信者が神への協力者となるべきであることを示唆しています。


『戦列』は、信仰、献身、そして神の道における努力の重要性を説く章です。ムーサー、イーサー、ムハンマドという3人の預言者の物語を通して、信仰のあり方、試練への立ち向かい方、そして最終的な勝利の意味が深く考察されています。

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