戦後日本思想大系

戦後日本思想大系（せんごにほんしそうたいけい）

「戦後日本思想大系」は、筑摩書房から1968年（昭和43年）に刊行が開始され、1974年（昭和49年）に完結した、全16巻からなる学術叢書です。このシリーズは、第二次世界大戦が終結した1945年以降の日本社会において展開された多様な思想の軌跡を体系的に集約し、後世に伝えることを目的として企画されました。

企画背景と位置づけ

本叢書は、同じく筑摩書房が1963年（昭和38年）から1968年（昭和43年）にかけて刊行し、日本の近代思想史研究に大きな影響を与えた全35巻の『現代日本思想大系』に続く後継企画として位置づけられています。『現代日本思想大系』が幕末維新期から第二次世界大戦に至るまでの思想史を広範に扱っていたのに対し、「戦後日本思想大系」は、文字通り敗戦後の日本に焦点を絞り込み、その思想的な展開を深掘りしています。先行シリーズの成功と実績を踏まえつつ、戦後という新たな時代区分の思想を専門的に探求する試みとして企画されました。

内容と構成

「戦後日本思想大系」は、その編集方針において、先行する『現代日本思想大系』との連続性と共に、明確な差異を持っています。構成面では、「現代大系」と同様に、各巻の冒頭には当該巻のテーマや収録された論考群を解説する専門家による詳細な解説が付されています。この解説は、読者が収録された著作の背景や意義を理解する上で非常に重要な指針となります。また、巻末には収録作品の筆者たちの略歴や、その時代の思想動向を把握するための関係年表が収められており、多角的な学習や研究を支援する構造となっています。

一方、大きな違いとして挙げられるのが、収録対象の時代と編集方針です。「現代大系」が幕末維新期から戦前期までを対象としていたのに対し、「戦後日本思想大系」は、戦後民主主義の導入、高度経済成長、社会変動など、激動の時代における思想的潮流を対象としています。

また、「現代大系」には特定の思想家の主要著作をまとめて収録した「著者別編集」の巻と、特定の思想的テーマに関する論考を集めた「テーマ別編集」の巻が混在していましたが、「戦後日本思想大系」では、全巻が特定のテーマに沿って編集されています。これにより、例えば政治思想、経済思想、文学思想、社会思想といった特定の分野や論点について、複数の思想家の多様な視点からの論考を横断的に比較検討することが可能となり、戦後日本の複雑かつ多層的な思想空間を立体的に理解するための有効な手段を提供しています。テーマ別編集は、個別の思想家だけでなく、時代の問題意識や論争の構造を把握する上で有益なアプローチと言えます。

思想史研究における意義

「戦後日本思想大系」は、第二次世界大戦後の日本社会を理解する上で不可欠な思想的基盤を体系的に提供する叢書として、現在も多くの研究者や学生に参照されています。全16巻にわたるテーマ別の編集は、戦後日本の思想が辿った軌跡や、その中で浮上した主要な論点を包括的に捉えることを可能にしました。この叢書を通じて、戦後日本の思想史研究は、個別の思想家論に留まらず、社会全体の思想的動向や時代精神を深く掘り下げることが可能となったと言えるでしょう。

筑摩書房は、本叢書以外にも、『近代日本思想大系』や前述の『現代日本思想大系』といった、日本の思想史における重要な時代を対象とした大型叢書を刊行しており、これらのシリーズと合わせて参照することで、近現代日本の思想全体の流れをより包括的に理解することができます。「戦後日本思想大系」は、その中でも特に戦後という時代の思想的特質を深く掘り下げた、貴重な文献集として位置づけられています。

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