戸本誠

物理学者 戸本 誠

戸本 誠（ともと まこと）氏は、1971年7月28日生まれの日本の物理学者です。素粒子の根源に迫る高エネルギー実験物理学を専門としており、現在、高エネルギー加速器研究機構の素粒子原子核研究所で教授を務めています。

研究分野と主要な活動

戸本氏の研究は、世界の素粒子物理学研究の最前線で行われています。特に、欧州原子核研究機構（CERN）が運用する、世界最高エネルギーの衝突型加速器である大型ハドロン衝突型加速器（LHC）を用いた実験に参加し、新たな素粒子現象の探索に力を入れています。LHCでは、陽子などの粒子を光速に近い速度に加速して正面衝突させることで、宇宙が誕生した直後のような超高エネルギー状態を人工的に作り出します。この衝突によって生成される様々な素粒子やその反応を精密に測定・解析することで、素粒子の標準理論の検証や、それを超える未知の物理法則、あるいは暗黒物質や暗黒エネルギーといった宇宙の謎に繋がる可能性のある現象の発見を目指しています。戸本氏は、この国際共同研究において、実験装置の運用、データの取得、高度な解析手法の開発など、多岐にわたる重要な役割を担っています。

学歴とキャリアパス

戸本氏の学術的な道のりは、名古屋大学から始まりました。1994年に名古屋大学理学部物理学科を卒業後、同大学大学院理学研究科に進学し、より専門的な物理学の研究に取り組みました。1996年に物理学専攻の修士課程を修了し、さらに博士課程へと進みました。博士課程では、自身の研究テーマに深く取り組み、2001年3月に博士課程を修了し、名古屋大学より博士（理学）の学位を取得しました。

博士号取得後、戸本氏は国際的な研究環境に身を置くため、2001年6月からは米国にあるフェルミ国立加速器研究所の研究員となりました。フェルミ国立加速器研究所は、当時世界的に主要な加速器施設の一つであり、戸本氏はここで最先端の素粒子実験に携わり、貴重な経験を積みました。

米国での研究員生活を経て、戸本氏は日本に帰国し、2006年には母校である名古屋大学大学院理学研究科の准教授に就任しました。名古屋大学では、自身の研究を進めるとともに、次世代の研究者の育成にも尽力しました。そして、2020年、日本の高エネルギー物理学研究の中核機関である高エネルギー加速器研究機構（KEK）の素粒子原子核研究所の教授に就任し、現在に至ります。KEKでは、国内外の研究機関と連携しながら、LHCをはじめとする大型加速器を用いた素粒子物理学のフロンティア開拓を推進しています。

重要な業績と受賞

戸本氏のこれまでの研究活動の中で特筆すべき業績の一つに、「B中間子混合の測定」に関する研究があります。B中間子混合は、クォークという素粒子が種類を変える（フレーバーが変わる）現象に関連しており、素粒子の標準理論における記述の検証や、新たな物理法則の存在を示唆する可能性のある、非常に重要な物理現象です。戸本氏は、このB中間子混合に関する精密な測定によって、素粒子物理学の理解に貢献しました。この業績が高く評価され、戸本氏は2001年9月に高エネルギー物理学奨励賞を受賞しています。これは、戸本氏が若手研究者として、国際的な舞台で顕著な成果を上げたことが認められた証と言えます。

今後の展望

高エネルギー加速器研究機構の教授として、戸本氏はLHC実験における日本のグループの中心メンバーの一人として活動を続けています。LHCは今後もアップグレードが進められ、さらに多くのデータが蓄積される予定です。これにより、これまでは観測が難しかった稀な現象や、理論的に予言されているが未発見の素粒子の探索が進むと期待されています。戸本氏の高度な実験技術とデータ解析能力は、これらの重要な発見に繋がる鍵となります。宇宙の根源的な謎の解明を目指す戸本氏の今後の活躍が、国内外の物理学界から注目されています。

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