戸沢正実

戸沢正実：出羽新庄藩の軌跡と激動の時代

戸沢正実は、出羽国新庄藩の第11代藩主として、激動の幕末から明治維新期を生き抜いた人物です。天保3年（1832年）、第10代藩主・戸沢正令の長男として誕生しました。幼少の頃に父を亡くし、家督を継いだ正実は、祖父や母の後見を受けながら藩政を担いました。弘化3年（1846年）からは家老の吉高勘解由による藩政改革が実施され、藩の近代化が推進されました。

戊辰戦争と新庄藩の苦難

慶応4年（1868年）、戊辰戦争が勃発します。当初、新政府軍に協力した新庄藩でしたが、庄内藩との戦いで敗北を喫し、奥羽越列藩同盟に加入、新政府軍と対立する立場に立たされました。一時、庄内藩と連携して新政府軍を圧倒する場面もありましたが、その後、新庄藩は同盟軍の敗走の一因となる行動を取り、庄内藩の怒りを買ってしまいます。

結果、新庄城は落城し、城下町は焦土と化しました。正実とその一族、藩士たちは命からがら久保田藩へ逃れました。70日間にわたる庄内藩による占領は、新庄藩にとって大きな打撃となりました。この新庄藩の動向には、正実の母で薩摩藩島津家出身の桃令院の影響が大きかったと推測されています。

赦免と加増、そして廃藩置県

当初、新政府軍離脱の責任を問われた正実でしたが、薩摩藩の大山格之助の尽力により釈明し、赦免を得ます。明治2年（1869年）6月2日には、戦況を有利に進展させた功績が認められ、1万5,000石の加増を受けました。同年6月には版籍奉還により、新庄藩知事となりました。焼失した新庄城に代わり、城下の常盤町の別邸を仮の住まいとしましたが、明治3年（1870年）8月には新庄城の仮復旧が完了し、政庁と知藩事屋敷は城内に戻りました。

しかし、明治4年（1871年）7月、廃藩置県により知藩事職を免職となり、同年8月には東京に移住しました。

晩年と栄典

明治17年（1884年）7月8日、正実は子爵に叙爵されました。その後も、明治20年（1887年）12月26日には正四位に叙せられました。明治29年（1896年）8月16日、65歳で生涯を終えました。

戸沢正実の家族

正実の生涯を語る上で、家族についても触れておく必要があります。正室の小笠原茂代子をはじめ、数人の継室を迎えました。側室との間に生まれた長男・戸沢正定、次男・戸沢富寿のほか、複数の娘もいました。娘たちは、島津家、米津家、岩倉家といった名家に嫁いでいます。彼の家族は、幕末から明治にかけての日本の社会情勢を反映しており、複雑な人間関係と歴史的背景を垣間見ることができます。戸沢正実の生涯は、激動の時代を生き抜いた藩主としての苦悩と功績、そして家族との絆を物語るものです。彼の生き様は、日本の歴史において重要な一章を刻んでいると言えるでしょう。

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