所有せざる人々

書籍紹介: 所有せざる人々

アーシュラ・K・ル＝グウィンによる小説『所有せざる人々（The Dispossessed）』は、1974年に発表されたユートピアSFとして知られています。本作は、異なる社会体制と人々の関係性を深く掘り下げ、さまざまな評価を受けてきました。1975年にはヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、ジュピター賞の長編小説部門で受賞しており、ル＝グウィンの代表作の一つとして広く認識されています。また、1993年にはプロメテウス賞殿堂賞も授与されています。

あらすじ

物語は、恒星タウ・セティを舞台に、アナレスとウラスという二重惑星の間で展開します。アナレスは200年前にオドー主義者によって開拓された土地で、荒涼とした自然環境が特徴です。一方、ウラスは資本主義的な国家で階級社会が形成されています。

メインキャラクターであるシェヴェックは、アナレスで生まれ育った物理学者です。彼は、一般時間理論の完成を目指してウラスへと旅立ちます。物語は、アナレスでのシェヴェックの成長と、ウラスでの文化的、社会的な試練が交互に描かれます。

ウラスの物語

ウラスに到着したシェヴェックは、そこで迎えられるのは資本主義的な国家ア=イオの大学です。彼は華やかな社交界に参加しますが、次第に自身の理論がア=イオの国家に所有されることに気づき、大学を去る決意をします。孤独な彼が助けを求めたのは、労働階級の人々だったのです。彼は彼らの希望を感じ、共に戦うことになります。

ア=イオは隣国スーと戦争に突入し、労働者たちはそれに反対してストライキを計画します。シェヴェックは演説を行いますが、政府はこれを弾圧します。行き場を失った彼は、ウラスに駐在する異星の大使館に助けを求め、そこで自らの理論を人類全体に広めることに成功し、再びアナレスへと帰還します。

アナレスの物語

アナレスで育ったシェヴェックは、父親の元で物理学を学び、独自の時間理論を発展させていきます。しかし、彼の考えは当初から理解されず、支持を得ることは困難でした。徐々に家族を持ち、彼は研究を続けますが、組織内の権力者によって論文の出版を拒まれ、職を失います。また、異常気象の影響でアナレスは厳しい環境に直面し、貧困が広がります。シェヴェックは、遠く離れた場所で肉体労働を行うことを余儀なくされます。

数年後、家族と再会した彼は、オドー主義の理想が以前とは異なる変化を遂げつつあることを実感します。この社会が閉塞していることに気づいたシェヴェックは、友人や妻と共に新たな組織を設立し、自身の理論の出版やウラスとの交流を進めていきます。

書籍情報

本作の日本語訳は、佐藤高子によって行われ、早川書房から1980年に刊行されました。装画は鶴田一郎が手掛けています。1986年にはハヤカワ文庫SFとしても再出版されています。

関連項目

• - アンシブル: 主人公シェヴェックが発見した時間理論に基づく即時遠隔伝達装置で、本作の重要な要素です。
• - ハイニッシュ・ユニバース: ル＝グウィン作品群の舞台で、『所有せざる人々』はこの宇宙の初期の物語として位置づけられています。

ル＝グウィンはその作品を通して、政治、自由、個人の存在意義について深く探究し続けました。この作品はその集大成とも言える一冊です。

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